サイコパスをやめたくて⑥
灰里は走って家へと帰った。 玄関を開けると早々に声を荒げる。
「おい姉さん!!」
「灰里? どうしたの!?」
リビングから心配するような母の声が聞こえたが、それを無視し二階へと上がった。 ノックもなしに姉の部屋を蹴り開ける。
「ちょっと! ノックもなしに勝手に入ってこないでよ!」
姉は現在アクリルケースで生き物を飼っている。 その生き物で遊んでいたようだった。
「姉さんのせいで俺の人生は変わった。 どうしてくれるんだ!」
「はぁ? それが姉に対する物の言い方?」
「お前は俺の姉さんなんかじゃない! こんな姉さんなんて、俺はいらない!」
姉に近付くと、アクリルケースを倒した。 土と飾り木がぶちまけられ、巨大な蜘蛛やカエルが部屋中を動き回る。
「ちょっと、いい加減にしてよ!」
「いい加減にするのはそっちだ! このサイコパス!」
「サイコパス・・・?」
流石に騒ぎの大きさを悟ったのか、階段を駆け上がってきた母が制止した。
「止めて!」
母が灰里を後ろから抑える。 姉に危害を加えさせないためだろうが、それを見た姉は突然狂ったように笑い出した。
「サイコパス・・・。 あぁ、私はサイコパスだったのか・・・! 通りでドラマやアニメに出てくるサイコパスに共感できたわけだ。 いいじゃないサイコパス。
そこら辺にうじゃうじゃいる凡人よりも、はるかに楽しい人生を送れるのよ?」
「俺は普通の人に戻りたい。 だけど姉さんのせいで、もう戻れないんだ!」
姉に近付こうとするが、母に強く食い止められていて動けない。
「なぁに? それでいいじゃない。 灰里も楽しい人生を送れるのよ」
「嫌だ! 俺は友達と、普通で平凡な毎日を過ごしたいだけなんだ! ・・・それなのに、友達が苦しんでいても全然共感ができないし、生き物と遊ぶのも今では楽しくて仕方がない。
どうしてくれんだよ!」
「灰里お願い! 落ち着いて!」
「もうこんな家にはいたくない。 姉さんのことは一生許さないからな!」
母を振り払うと、姉の部屋を飛び出した。
―――このまま俺は、死ぬまでずっと一人ぼっちなのかもしれない。
―――もう、どうしたらいいんだよ・・・!
自然と涙が出てきた。 家を飛び出すと、玄関の前で先程いじめられていた真白と会う。 偶然とは思えず、自分を尾けていたのかと薄ら寒くなる。
「・・・何だよ」
相手を睨むようにしてそう言ったのだが、あることを察し自分の家の二階を見上げた。 姉のいる部屋の窓は開いていて、会話が全て筒抜けになっている。
だが姉と母の声が聞こえないのが何となく不気味だ。
「場所を移そうか」
真白の提案に乗り、二人は並んで歩き出す。 目的地もなく歩いていると真白がポツリと言った。
「僕は君と同じだと思っていた」
「・・・同じって、サイコパスのこと?」
その言葉に真白は頷く。
「まぁ僕にとってこれが普通だから、変わっているだなんて思わないけど」
「俺と同じだと思っていたって、どういうこと?」
「君はサイコパスではない。 ソシオパスなんだよ」
ソシオパスというのが何か真白は説明した。 それは環境等が原因で、後天的にサイコパスになった人間のことだ。 サイコパスというのは先天的で生まれた時からの性格を言うらしい。
「・・・いや、そんなことは関係ないよ。 なってしまえば、もうみんなサイコパスだ。 普通の人に戻りたくても戻れない。 俺は、どうしようもない人間なんだ」
「普通の人に戻れる方法は知らないけど、君はほとんどサイコパスは直っていると思うよ」
「・・・え? 本当に?」
「通常のサイコパスは“普通の人になりたい”だなんて思わないから。 今の自分が好きだからね。 君は、今の自分が好き?」
「・・・昔は好きだったけど、今は嫌い」
「そんなに泣いて“普通の人になりたい”と強く望んでいるから、もうサイコパスではないよ。 いや、完全に消えてはいないけど、おそらくもう直りかけてる」
「ッ!」
完全に消えてはいないというのは、真白をサイコパスの力を発揮し助けたからそう思ったのだろう。
「本物のサイコパスの僕と出会って、君は恐怖心を感じることができたんだ。 僕に感謝くらいしてもらわないと」
そう言うと真白は灰里の返事も待たず、この場から去っていった。
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