第5話 堀之内月詩と言う人(1)

「最後に、クラス委員を決めましょう。男子一名、女子一名です。立候補したい人はいますか?」


 蜂ヶ峰学園二年三組担任、安東先生が自ら手を挙げてクラスに立候補を促している。童顔で上背がないので、教卓に身体が隠れてしまっていて、その姿は教員でなく子供のように見えてしまう。

 本日最後の時限は、ホームルーム。

 半分の時間を使った席替えは終わり、クラス委員が決まってしまえば、解散となり部活に所属していない俺は家に帰ることができる。

 ラブレター問題のせいで、今日一日授業の内容が頭に入ってこなかった。

 家に帰ったところでラブレター問題が解決する訳でもないけど、とにかくクラスから離れたい。字が綺麗だったラブレターの内容から、差出人が俺と同じクラスの人間だと推測できるからだ。


「堀之内さんしかいないみたいですね。女子のクラス委員は堀之内さんでいいですか?」


 俺の隣に座っている少女が、滑らかな細い指を伸ばし、真っ直ぐと腕を挙げていた。

 彼女は、堀之内月詩ほりのうちつくし

 目鼻立ちがよく通った美貌と、モデルのようにすらっとしたスタイルの良い長身を兼ね備えている。それでいて、制服の上から目立つほど、出るところは出ているのがわかる。目を引くのは、腰の当たりまである長い黒の髪だ。絹糸のような繊細な輝きを放っていて、吸い込まれるような美しさがある。

 成績は学年トップで、中学時代は水泳で全国大会上位入賞まで果たしたらしく、容姿端麗、文武両道、品行方正。全てを有した完全無欠の蜂ヶ峰学園四大美少女の筆頭らしい。乃蒼以外の蜂ヶ峰学園四大美少女はよく知らないので、以上は佐藤から情報である。

 去年クラスが同じだったので、俺から見ても欠点のない人なのだろうとは思う。


「異論もなさそうなので、女子のクラス委員は堀之内さんに決定です」

 

 座ったまま、軽く堀之内さんが一礼する。

 彼女がクラス委員をやってくれるなら、このクラスは安泰だろう。


「男子は立候補する人がいないようなので推薦にしましょう。誰か推薦したい人はいますか?」


 昼食を食べながら佐藤に相談したら、「男は甲斐性。俺なら二人同時に付き合うぜ。俺ならハッピーエンドだ」と発言していた。ハッピーエンドを迎える前に、何度セーブとロードを繰り返したのか、と投げ掛けると無言を貫いていたので参考にするべきではない。

 実行したら命がいくつあっても足りないし、そもそも最低な行為だ。

 やはり、帰宅したら乃蒼が帰るのを待って相談するべきだろうか? 

 乃蒼はそれなりにモテると言う話だ。告白されても全て断っているらしいので、こう言う時に、遺恨を残さず上手く立ち回れる方法を知っているかもしれない。


「堀之内さん、どうぞ」


 再度、堀之内さんが挙手している。

 堀之内さんほど影響力があって、名が通った人物が推薦するのであれば、余程のことがない限り、その人がクラス委員に決定するだろう。

 誰でもいいから早く決まって欲しい。


「私は、ローセンブラード君を推薦したいと思います」

「……はい?」


 堀之内さんに推薦されるとは露程も思っていなかった俺は、気の抜けた馬鹿みたいな声を漏らしながら彼女を眺める。

 堀之内さんは、俺のことに気が付くとにっこりと満面の笑みを見せてくれた。

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