第4話 ヨミガエリ

 「やっと落ち着いたようだな。実は、俺が来たのは教授の件だ。聞きたくはないだろうが、耳だけでも貸して欲しい。実は教授のお葬式の後、『先生を偲ぶ会』というのをやったんだ。その会を真っ先に計画したのは……まぁお前も見当がつくだろう?」と問いかけてきた。

 こんなの答えは決まりきっていた。

「高崎、だろ……。」

 高崎とは僕とこの友人と同じく教授の助手をしていた研究生で表面上では教授を尊敬してやまないという感じだが、内心は早く教授の地位が欲しいだけの男だ。

「それで高崎がその会を提案して何かまずいことでもあったのか?」

と聞くと、友人は苦い顔をしながら

「まずいとかいう問題じゃないんだ……。その会であいつ、『次の教授候補は誰になるんだろうな。』って言い出したんだよ……。」

 確かに考えてみればあいつが言い出しそうなことだなと思った。

「それで、どうしたんだ?」

と言うと、友人はバッグから一台のパソコンを取り出した。

「それで……その……教授のパソコンのパスワードのロックを皆で解除して、遺言書らしきものがないか探したんだよ。それで探していたら、こんなのが出てきたんだ。見てくれ。」

 そう言う友人に僕は状況が理解できず、ただ目の前のパソコンの画面を見つめていた。

 

 先生は大学の生徒に『殺された』んだって。だが、それは僕や先生を尊敬している生徒が考察したことであって、警察は『自殺』で考えていた。それがあってか、先生の私物は意外と手付かずだったのだ。

 そのパソコンの中に《最後に》という名のフォルダを見つけた。

「最後に……?」

「そうだ。そしてこの中のファイルには、こう書いてあった。皆、今までありがとう。私はこの世を去ります。これからは―。」

 友人が次々と文面を読み進めてゆく。


 僕の頭は、真っ白になりかかっていた。


「―っとまぁこんなこんな感じで、俺らに向けての感謝やアドバイスなどが書かれているんだ。何行も、みっしりと、そしてこの中にお前へのメッセージも当然ある。今のお前だと状況を整理するのにいっぱいいっぱいだろうからな……。ざっとまとめて話すと、教授曰く、次の教授はお前になって欲しいということだ。良い結果を出せるよう、自分が放棄していた研究を活かして頑張って欲しいとも言っている。」

 それでその研究の内容はこの『人間性』というフォルダに入っているらしい。そのまま煽るように友人が言ってきた。

「お前ならできる。だから戻って研究を再開しろ。あの教授の期待を無駄にするな。それが言いたかっただけだ。そのパソコンはお前に渡す。有効活用しろよ。俺はいつでも待ってるから。じゃあな。」

 そう言って、返事をする暇もないまま、友人は帰っていった。


 僕は数時間ほどぼうっとして、やっとパソコンにある『人間性』と書かれたフォルダを開いた。するとそこには『人は環境で性格や雰囲気が変化する。環境がどのように変われば、どんな人格になるのだろうか』と、教授らしい風変わりな、新しい研究内容だった。

 僕は期待されているという使命感と、このおもしろそうであの教授らしい研究に、荒れてしまう前の研究に対する熱心なおもいが甦ってきた。

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