第2話 転

 ずっとこれからもこの温かい人たちと一緒にいられると思っていた。


 そんなある日、教授が亡くなった。

 六十三歳、今の時代では早すぎる旅立ちだった。その前日には、

「たまには休憩も研究の鍵だからな。皆でピクニックでもしよう。」

と、いつもと変わらない優しく、若々しい声ではっきりと話していたのに。

 僕は正直認めたくなかった。あの先生が、皆に好かれ、多くの結果を残し、社会を驚かせたあの教授が、この大学の「生徒」に恨まれ殺害されたなんて信じられなかった。

 

 信じたくなかった。


 たくさんの「天才」の中に紛れ込んでいた僕を見つけ出して、居場所を作ってくれた僕の大切な人が亡くなったなんて。


 嫌だ。


 信じたくない、だから僕は、教授のお葬式には参列しなかった。

 後から後悔するとか、この後の事は全く考えていなかった。ただ僕の中の教授を死なせたくなかったのだ。そして、それから毎日毎日大学を休み、研究を放棄し、酒に溺れた。


 僕の姿を見た彼女は何も告げずに去ってしまった。


 僕はまた酒を浴びる。


 そして、一ヶ月が過ぎようとした頃、友人が家を訪ねてきた。

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