2-4
「警察のかた、ですか……?」
「はい。K県警捜査一課の
「同じく捜査一課の
「はぁ……」
葵は困惑を隠せない。
仕事の資料を忘れたことに気付いた葵は急いでマンションに戻ってきたのだが、部屋の玄関の前に見知らぬ二人組の男性が立っていた。
最近、物騒な事件が多い。
ここは警察に通報するべきかとバッグからスマホを取り出したところで二人組の片割れ――今しがた前野と名乗った男が葵に気付き声をかけてきた。
警察の者だが話を聞かせて欲しい、と。
「お疑いならこれを」
前野はよれたスーツの内ポケットから何かを取り出すと葵に見せた。
それは警察手帳だった。
前野にならって大迫も手帳を葵に見せる。
「お二人の素性は分かりましたが一体どのようなご用件で?」
「ええと、ですね。最近、
前野が探るような調子で聞いてくる。
葵には思い当たる節があった。
「……ひょっとしてあの連続殺人事件の話ですか? 若い女性ばかりが狙われている……」
「お話が早くて助かります」
「その事件がわたしとなんの関係があるのでしょうか?」
「ハタ・チドリ、と言う名前に憶えは?」
ハタ・チドリ。
誰だろう……。知人や友人にそんな名前の人はいただろうか?
葵は無言で記憶を掘り進める。
ハタ・チドリ。
畑千鳥……。
「あ」
葵は小さく声をあげる。
「心あたりが?」
「はい……。確か、高校時代の知人にそんな名前の子が……」
「耕す畑に千の鳥で
「ええ。多分、それで間違いないかと」
葵の言葉に前野と大迫が目を合わせる。
「でも、畑さんとは高校卒業後はまったく連絡も取り合っていませんよ? 進学先も別でしたし。彼女に何かあったんですか?」
「此乃で発生した連続殺人事件なんですがね、その三人目の被害者が畑千鳥さんなんですよ」
前野の言葉に葵が悪い冗談をとでも言いたげな表情を作る。
「そんな顔をしないでください。星さんのおっしゃりたいことはよく分かります」
「この話、長くなりますか? わたし、これから仕事があるんですけど……」
「ご心配なさらず。そんなに長い時間はいただきません。それで、畑千鳥さんの件ですが。三人目の被害者、報道では別の名前になってましたよね? 捜査を進めるうちに判明したのですが、被害者の身元が偽装されていたんですよ。いわゆる隠蔽工作というやつですね」
「隠蔽工作?」
「はい。畑さんの遺体だと気付かれないように。畑さんは別人として被害に遭われたのです」
葵の頬が僅かに引き攣った。
「……それは非公開の情報になるのでは? そんな話を一般人にして問題にならないとでも?」
「この件に関しては今さっき記者会見が行われたところです。ニュースにもなってますよ」
「そうなんですか? 移動中だったので知りませんでした。だからといってわたしに何か協力できるとは思えませんが」
「いやはや。そう難しく考えなくても結構です。そうですね……もしよろしければ思い出話を聞かせてもらえませんか? あなたと畑千鳥さんの学生時代のエピソードを」
前野の目が剃刀のように鋭い光を放つ。
「もちろん今日でなくてもかまいません。星さんの都合のいいときに連絡をくだされば。私たちがおうかがいしますので」
そう言う前野の隣で大迫が黙ってうなずく。
葵の背中を嫌な汗が伝っていった。
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