2-3
「あ、そうだ。先輩、今日の放課後ヒマ?」
「何を企んでいるんですか?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ!?」
「ちょっと買いものにつき合って欲しいだけです!」
「買いもの……ですか?」
宙樹の表情は疑わしげだった。
「前に話したよね、私がおねーちゃんと二人暮らしだって。家事は二人で分担してるんだけど、今日は私が夕食当番なの。
美朱の言葉に宙樹は眉を寄せる。
「アドバイスですか? おれは別に料理が得意なわけじゃないですよ。必要だからやってるだけで」
「えー、ケンソンしないでよー。お弁当、メチャクチャ美味しそうだったよ」
「よく見てますね」
「目がいいんだよ、私。視力は左右どっちも2.0!」
「そうですか。おれは裸眼だと両方0.1ですね」
「インターネットのやりすぎじゃない? 騎士じゃん」
「眼鏡使用者に対する偏見だっ! 訴えてやる!」
「冗談だよ、冗談」
「……分かってますよ」
「それで、買い物に同行してもらえる?」
美朱がおずおずと聞いてくる。
「おねーちゃんに美味しいご飯を作ってあげたいんだよね。ここんとこ、仕事が忙しくて疲れてるみたいだし、私も自分のできることで協力したくて……」
「まぁ、そういうことならお手伝いしますよ」
先日、後輩の少女に酷い言葉を放ってしまった。
当人はもう気にしていないようだったが、少年の心のなかには魚の小骨のような罪悪感が未だ残っていた。
これは罪滅ぼしだ。単なる自己満足かもしれないが、何もしないよりはマシだろう。宙樹はそう考える。
「やったー! ありがとう、先輩!」
大きな瞳を宝石のように輝かせながら美朱が感謝の言葉を伝えてくる。
満開の花を思わせる笑顔に宙樹は自分の鼓動が速くなるのを感じる。
握った掌が汗ばむ。
「で、でも、あまり期待しすぎないでくださいね。おれの料理の腕は本当に大したことないんで……」
「だーかーらー、ケンソンは良くないよ先輩! 私の信じた
「なんですかそれは。意味不明ですよ」
「もう、先輩はイチイチこまかいなー」
「
「えー、何それー。失礼だなぁ」
「アンタにだけは言われたくないですよ!?」
宙樹は盛大にツッコミを入れる。
「待ち合わせどうする? ここにする?」
美朱は先輩の激しいツッコミを華麗にスルーして話をどんどん進めていく。
「星さんが良ければ」
「それじゃ、放課後にまたここで」
「了解です」
屋上は放課後にも解放されている。もっとも利用者はほとんどいなくなってしまったが。
「……遅くなったら、あえるかな」
「あえる? 誰にですか?」
宙樹は訝しげな表情を浮かべながら聞く。
「連続殺人犯。若い女の子を狙ってるんだよね?」
黴臭い風が吹き抜け、美朱のショートボブを躍らせる。
いつもは雪のように白い頬がそのときだけは赤くなっていた。
美朱が宙樹に微笑みかける。
後輩の視線が
くしゅん。
宙樹はすんでのところでくしゃみを我慢し損ねた。
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