第8話 神藤真昼との邂逅 後
「——それで浅嶺くん。キミは自分がどうしてここに連れてこられたのか理解できているかな?」
あいも変わらず怪しげなラボ内で、なおも微笑みを崩さない会長に俺は首を激しく振った。
「……わかるわけないでしょ。もうさっきから頭が混乱しておかしくなってますって」
「くふふ、そりゃそうよね。すんなり受け入れられでもしたら、キミの常識を疑うわ」
会長は笑うが、本当に
もう
「遠い目をしているね、浅嶺くん? お
「違いますよッ! 人生の
「いつだって人の世は儚いものだよ。だからこそ、人は夢を見ることにしたんだから」
「……なんだか
だが、いつまでも驚いてばかりではいられない。自然界では過酷な状況の変化にも適応できなかったものから死んでいく。冷静に対応できなければこの
俺は会話の主導権を
「というか会長、俺のこと知ってんすか?」
「もちろん。生徒の
手ですくうように髪をなびかせ、こともなげに告げる会長に俺は驚いて
「把握してるって、もしかして生徒全員?」
「もちのロンよ。そうでなくちゃ意味ないじゃない」
「むぅ、なんか信じてないみたいだね。いいよ、ならここでキミのプロフィールを紹介しましょう」
思考が顔に出てしまっていたのか、会長は不満げに頬を
……なんかホントに子どもっぽいなこの人。
何よりここで俺のプロフィールを会長が
しかしまあ、今後の対策を考える時間を
ここは黙って
「わかりました。ぜひお願いします」
「おっけー。ふふ、耳をかっぽじってよーく聞きなさいよ、キミのことはもう丸裸にしてるんだから!」
そして会長は俺のプロフィールを述べ始める。
「さて、じゃあまずは基本的なことから。名前は浅嶺賢治。一二月一三日生まれ。ウチとしては珍しいことに
「——ちょ!」
それまで黙って聞いていた俺だったが、怪しい方向へと進み始めたプロフィールに待ったをかける。しかし会長はその先を
「
「——ちょ、ちょっと待てって!! 会長ッ!!!」
慌てて止めに入る俺に、けれど当の本人はニタニタと笑って俺を見て、
「あれれ、どうしたのかな? まだ半分もいってないけど?」
「……そ、それ以上はやめろ。いや、やめてください。マジで。……っていうか会長、なんでそんなことまで知ってんだよ!」
本当に一体どこから
しかし会長は得意げに胸をそらすと、
「ふふん♪ 生徒会長であるアタシに知らないことなんてないわ♪ 生徒のことなら何でも知っているのよ♪」
「馬鹿なッ! プライバシーってもんがあるでしょ!」
「ぷらいばしー? 初めて聞く言葉ね。悔しいけれど、そんな言葉はアタシの辞書には
……くそ、なんて奴だ。甘かった。俺としたことがこの異常な事態を受け入れるのに必死で、会長のもうひとつの
なにも会長はその天才ぶりと可愛さだけで学校中に名を
――賀茂橋に
なぜ
「でもま、安心して。広める気はないし、そもそもキミだけじゃないから」
「俺だけじゃ、ない……?」
「そ。学校のみんなの秘密も集めてるわ。アタシに逆らう気がなくなるような秘密を——もちろん、キミのお友達の天城くんの分もね♪」
「……」
俺は
「あ、すみません。最後の方がよく聞き取れなかったんですが、え? 何の秘密だって?」
「あらら、興味津々ね。もしかして——聞きたいの? お友達の天城くんのヒ・ミ・ツ」
天城の秘密、だと? 何言ってんだ馬鹿野郎、そんなもん——。
「…………聞きたい、です」
すまない天城……どうやら俺は悪魔に
「くふふ、キミも案外悪だねぇ。この状況でまず友達の秘密を聞きたいっていうんだから。うんうん、いいよいいよ。キミのその
そして俺は天城の秘密を知った。俺は今後温かい目で奴を見守ってやろうと思った。
「それより……会長、なんでこんなところにいるんですか? 授業はどうしたんですか、いまは
スマホで時間を確認すると、午後二時四六分。俺が春山に拉致されてから五〇分ほどが経っている。まだそれだけの時間しか経っていないことに驚くが、しかし通常であれば六時限目が行われている時間だった。俺も春山に拉致されていない世界線では今ごろ生物の授業を受けているはずだ。確かきょうは課題の提出日のはずだったが……まあ、それは後で会長になんとかしてもらうことにしよう。
「もちろん自主休講よ」
「……いいんですか、仮にも会長がそんなことして」
視線で
「あれ、キミ知らないの? 賀茂橋高校の校則を」
「校則? なんのことっすか?」
俺が知らないことに本当に驚いているらしく、会長は目を丸くして、
「へーホントに知らないんだ。ウチの生徒としては珍しいこともあるもんだね。あッ、まさかモグリ?」
「……アンタさっき俺のプロフィールを
「ふふ、冗談よ。――あのね、賀茂橋高校の校則にはこんなモノがあるんだよ。『
「はは、んなバカな。なんすかその校則。あるわけないでしょ、そんなの」
「むぅホントだってば。疑うのなら生徒手帳を見てみなさいよ」
会長に
ほ、ホントだ……マジでありやがる……。何考えてんだよ、うちの学校。
「いちおう
「……いや、大丈夫です」
確かに気にはなるが、いい加減話を
「んなことより会長。人命を助けるって、一体どういうことですか?」
「あら、もちろん言葉通りの意味よ」
「言葉通りの意味って……まさか、いったい誰の命を会長は助けるって言うんだ!?」
たまらず声を荒げた俺に、しかし会長は
「……キミねえ、ここまで来て本当にわからないの? それともわかっているけど認められないってことなのかな?」
「……」
「ふむふむ。
そう言うと、会長は俺に背中を向けさっきまで座っていた椅子にまで歩いていく。たった数歩の距離だっていうのに、ラボに反響する会長の足音が、まるで
そして会長は椅子までたどり着くと、腰掛けながら俺に向かって微笑んだ。
「でも、まだまだ
「……勘弁してくれ。俺はもう限界なんだ。これ以上、会長の
「残念だけど、アタシは事実しか言っていないよ。今日だって、
「……なんだよ、俺を守るためって……訳分かんねえよ……そもそも、どうして俺の命が危険に
「ううん、アタシは未来人でも、予知能力者でもないよ。ただキミの置かれている状況を正確に理解していて、キミに正確に説明できるってだけ」
「俺の置かれている状況って。だからなんなんだよ、それは! いい加減ハッキリ言ってくれよ!」
「うーん、一から説明すると長くなるんだけどさァ。ま、
そうして、会長はクルクルッと椅子を子どものように回転させながら、ひたすらに冷静な声で、
「——キミはこれから先、悪いワルイ宇宙人に命を
またもやそんな訳の分からない事実を告げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます