第9話 ポケットの中の因果
「——やっぱり信じられない?」
「あ、あたりまえだろ! なんだよ宇宙人って!? 馬鹿も休み休み言え、全然意味がわからねえよッ!」
「まぁそうでしょうねー。無理もない。アタシだっていきなりそんなこと言われても無理だもん」
ケラケラと
「ヘッ、なにがリリィデビルだ! この
「……アンタ、いきなり何言ってるの? 頭大丈夫?」
「あッ……」
やばい。またトランス状態に
急速に落ち着いてきた思考は目の前に座る
「……すまん。忘れてくれ」
「ごめんね。アタシ天才だから多分ずっと覚えてるわ」
「……俺が悪かったです。どうか忘れていただけると大変有り難いのですが」
「ま、忘れるかどうかは置いておいて。――そうだね。キミも混乱してるみたいだし、やっぱり順を追って説明しようか」
不吉なことを言いながら会長は指を鳴らした。すると、どこからともなくテントウ虫のようなデバイスがやってきて、俺たちの前に映像が
「す、すげぇ……」
「えへへ、便利でしょ? アタシが作ったんだぁ」
一転して子どものように
会長は自分でなんども自分のことを天才だと言っているが、それが
「えーっと、今日いちにちで浅嶺くんに起こった事態を整理するとぉ……」
俺が考えを
『
浅峰賢治くんの愉快な一日
一. 紅葉と出会う
二. 指輪を拾う
三. 空を飛ぶ
四. 秘密基地に
五. アタシと出逢う
六. 宇宙人に命が狙われていると知らされる
』
「ふむふむ、こんな感じかな?」
可愛らしく首を
「……はぁ、そんな感じですね」
「アハハ、
「…………誰のせいだと思ってんだよ」
「え、なんか言った?」
「……いえ、何も」
しかし改めて見ても、異常な出来事が並んでいる。特に三と六によってそのレベルが引き上げられているな、やっぱり。空を飛ぶとか、宇宙人に命を狙われるとか、ホント訳がわからん。何度も言うけど、ここはフィクションの世界じゃなくて現実なんだぜ? もうちょっと
……あと会長、さりげなく会長との出会いの漢字が出逢うになっているのはなんなんですか? 俺との運命的なロマンスでも期待しているんですか? だったらまずはその性格を直してください。オレハイジメッコガキライナンデス。
「——ま、これを見てわかる通り、キミが
会長は
「その上、さらに悪いことにキミはコイツを拾ってしまった」
同時に、会長が
「あ、それ……」
「そ。キミが屋上で拾った紅葉の指輪。これはアタシのだけどね」
そうだ。昼休みに春山と別れたあと、指輪を見つけた俺はそれが春山のだと思い、後で返そうとブレザーのポケットにしまったんだ。そして空を飛ぶ直前に春山から指輪を拾ったのかと詰め寄られた俺はそれを春山に……って、あれ? 返してないな。ポケットに入れたままだ。
俺は指輪を取り出して会長に見せた。
「あ、まだキミが持ってたんだ」
と、会長は初めて見せる
「……かわいそうに。気が付かないか、すぐに紅葉に返せていれば何の問題もなかったんだよ。けれどキミは指輪を拾い、五時間目を通して指輪を持ったまま過ごしてしまった。時間にして一時間、だけどそれはキミの一生を
「……た、ただの指輪だろ? なんで持ってるだけでそんな
「残念ながら大問題。――いい、浅峰くん? これはね、ただの指輪じゃない、一種の
「識別、コード……?」
「そう。アタシたちとパンピーをわける、ね」
「会長たちと、パンピーをわける……?」
ゴクリ、と
しかし会長は
「アタシと紅葉は共通の組織……っていったら
俺は納得する。なんらかの組織に所属している者どうし、身分を示したり
会長は説明を続ける。
「で。その指輪を持っていたキミはアタシたちの仲間と認識され、晴れてお
「じゃあ、俺はホントにそんなモンを拾ったがために――」
「――まァ、ぶっちゃけて言うと、指輪を持っていたことも最大の要因ではないんだけどねー」
「違うのかよッ! なんだったんだよ、いまの話は!」
「ワッハッハ、事態はその前に既に動き出していたのだよ、
会長は芝居がかった様子でそう言うと、なにやら急にニタニタといやらしい笑みを向けてきて、
「——聞いたよ、浅嶺くん。キミ、昼休みに紅葉と仲良くお弁当をつつき合っていたんだって?」
「なッ!」
「それどころか、手を繋いで廊下を歩き回ったそうじゃないか。やるね、キミも」
「ち、違うッ! あれは――」
弁当はつつき合ってねえし、後半はアンタの
「……真昼、お茶持ってきた」
おり悪く春山がお茶を乗せたお
「……どうしたの?」
「ううん、なんでもないわ。あ、お茶はそこに置いておいてくれる?」
「……うん、わかった」
「ありがと♪」
会長に言われた場所に春山は
「ところで紅葉、昼休みに彼からお弁当を貰ったんでしょ? どう、美味しかった?」
「……うん。先輩の想いがつまってた」
「――ばッ」
「そっかそっかー。うんうん、良かったね紅葉。ちゃんと浅嶺くんにお礼を言っておかないとダメよ?」
「……うん」
春山がこっちを見て、
「……美味しかった、です。今まで食べたパンで一番」
「あ、ああ……」
……本当にズルいやつだ。そんな顔でそんなことを言われたらもう何も言えねえよ。
俺はその代わり、ヒューヒュー、と
「だ、
「まぁ、そうねー。それ自体はよくあるラブコメ展開なんだけど……悪いことに、それをXに見られちゃったんだよねー。それでキミがアタシたちの仲間だって本気で勘違いされたみたいでさァ、いやー失敗シッパイ。やっぱり面白がって
……会長の
まずは出てきた気になる単語の意味を
「なんなんだよ、そのXっていうのは」
「敵よ? アタシたちの」
会長の返答は、まるでペンギンが空を飛べると告げるような自然さだった。
俺はもう戻れない日常に
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