第7話 神藤真昼との邂逅 前
地下の長いトンネルを抜けるとラボであった。通路の壁が白くなった。機械音に春山は足を止めた。
そんなふうに有名な小説の一節を利用したくなるほどに、俺の頭はショート寸前だった。俺の中にあった常識という名の壁がどんどん
ハッチを
まさか学校の裏山にこんな地下世界が眠っているなんて夢にも(むろん、この時の俺はまだこれが夢だという可能性を諦めてはいなかったのだが)思わなかった。
左右を見渡してみると、ステンレス製の
視覚だけでなく、
だがしかし、それらはこの空間において俺が向けるべき最重要な関心物ではなかった。
——それはラボのど真ん中に
ひときわ怪しげで大きなモニターの前に置かれた椅子に、誰かがこちらに背を向けて座っている。顔は見えないが、背もたれの横からはみ出ている長い
……いや、そう断定するのは
ともかくそんな怪しげな人物に向かって春山は声をかけた。
「……ただいま
「うん、ご苦労さま。よくやってくれたわね
返ってきたのは予想通り女の声だった。
おそらくコイツが俺をここに呼び出した張本人なのだ。
何のためかは知らないが、こんな
ここまでの春山の様子からないとは思うが、俺に危害を加えようとしている可能性だってある。楽観的な考えは捨てるべきだ。
俺は気を引き締め直し、相手の
まず聞こえたのは乾いた音。それが
「——くっくっく、待っていたよ
ラボを反響する音の中、ソイツはゆっくりと椅子から立ち上がり、俺に向かって笑いかけてきた。
「ようこそ、我が秘密結社へ。歓迎するよ」
一歩また一歩と近づいてくるにつれ、俺はソイツの顔をしっかりと
「え……」
どんな悪人ヅラが出てくるのかと警戒していたが、しかしその顔を見て俺は
俺の目に映し出されたのは、
だが俺が驚いたのは相手が少女のような見た目だったからではない。
——俺はこの少女を知っていた。
というか、
「紅葉から連絡があった時はどうなることかと思ったけど、うん、
その小さな身体で制服の上に白衣を
「な、なんで——」
だが、似合っているからといってこの場にいることを許容できるかというと、それはまた違う話だ。不敵に笑いながら、ゆっくりと迫ってくる少女に、俺は声を張り上げた。
「——なんでうちの学校の生徒会長がこんなところにいるんだぁ!?」
少女の名前は
——我が賀茂橋高校第四〇代目生徒会長その人だった。
「くふふ、いいわねぇそのリアクション。完璧だよ。後ではなまるをあげるわ」
俺の驚愕した様子を見て、会長は実に楽しそうに笑った。その仕草に、俺は目の前にいるのが本当に会長なのだと確信する。
しかしいったいなぜこんな場所に会長がいるのか、全くもってその理由がわからない。俺の頭はもう混乱を通り越して
だが俺の
「ありがとね、紅葉。ここまで彼を連れてきてくれて。疲れたでしょ?」
しかし当の春山は明らかにしょんぼりとした顔を浮かべ、
「……ごめんなさい、真昼。わたしのミスで先輩に指輪を拾われちゃったから」
「もー、それはもういいって言ったでしょ? そんなに気にしないでいいの。誰にだってミスのひとつやふたつ犯すことくらいあるんだから。大事なのは、これから気をつけることよ」
「……うん」
子どもにしか見えない外見とは
その光景はともすれば、
それから会長たちは何度か言葉を交わし合った後、春山を部屋の奥へと
「さて、と。——あらためてようこそ、浅嶺くん。アタシたちの拠点へ。歓迎するわ」
「は、はぁ……よろしく、お願いします……」
差し出された手を握り、よくわからないままに俺は会長と
握手を終えると、会長はその長い髪を
その理由に心当たりはなかったが、あるいは
「——ま、知ってるとは思うけれど」
と、しかし俺の内心など知るよしもない会長は
「
「は、はあ……二年の浅嶺賢治っす。よろしくっす」
なんとか言葉を返した俺だったが、予期しない会長の登場に
ゆえに俺は得意げに微笑み続ける会長を前にしても、
『……いるんだな、……自分のことを天才って自己紹介する奴……』
そんなバカみたいなことをぼんやりと考えていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます