第12話 ヨシツネとの邂逅
「にゃ〜。話は終わったのかにゃー」
喋る猫がそこにいた。とことこと短い足を
「ひどいのにゃマヒル。戻ったら呼んでくれるって言ってたのにゃ~」
「ごめんゴメン。アンタのことすっかり忘れてたわ」
「にゃにゃ! それはひどすぎるのにゃ、あんまりにゃのにゃ!」
おかしな会話を繰り広げる会長と猫をよそに、春山は
「……おいで、ヨシツネ」
「にゃ〜。おかえりなのにゃー紅葉ぃ」
小動物が小動物系女子に
宇宙人に命を狙われるとか、手配書がばら
「だけどヨシツネ。アンタ、アタシがここに戻ってきたときにいなかったじゃない。どこ行ってたのよ?」
「にゃー、ちょっと散歩に行ってたのにゃ」
「散歩って、もう……それで呼んでほしいって言われても困るわよ」
「にゃはは、そりゃそうにゃ。悪かったのにゃー」
「まったく……」
どうもヨシツネというのが猫の名前らしい。
きっと散歩というのは
にしてもヨシツネ、か。俺はなんとなく木下に目を向けてみた。
「ああん? んだよ、じろじろ見てんじャねえよ」
「いや、お前の主人だなと思ってよ」
……待て、俺はいま何を口走った? 口は災いの元だぞ。
案の定、木下はこめかみをピクピクさせている。いつ噴火してもおかしくない
しかし、いくら経っても爆発することはなかった。
「お、おい……
「……チッ」
恐る恐る声をかけると、木下は壁に背を預けるようにして目をつむり黙ってしまった。そんな様子を不思議に思って見ていた俺に、会長はニヤニヤと笑いながら、
「ま、事実ヨシツネは弁慶の師匠だからね。否定のしようがないんでしょ」
「マジかよ……」
急に春山に
「ふにゃ?」
っと、目が合う。どうも、と俺は
「なんにゃなんにゃ、知らない顔がいるのにゃ〜。誰なのにゃー」
「あ、えっと、俺は——」
「——彼は浅嶺賢治くん。今日からアタシたちの結社の一員となる人よ」
自己紹介をしようとした俺に会長が
てか、なんだって? いま会長はなにを言った? 俺が会長たちの結社の一員になる?
「ちょっと待てよ会長、そんなの
「あれ、さっき言わなかったっけ?」
初耳なんだが。たぶん。……いやでもホント勘弁してくれよ。ここまで色々ありすぎてもう俺の脳が追いついていないんだ。ちょっと休ませてくれ。
しかしどうやら春山という名の特急列車に乗ってしまった俺に
「それはそれはなのにゃ〜」
そう言ってぴょんと春山の腕から飛び降りた猫が俺のもとまでやってくる。
……結構かわいいな、コイツ。ロシアンブルーか。つぶらな瞳がなんとも愛らしい。
「にゃ〜。どうしたのにゃ、そんな顔をして。おしっこにゃ? トイレは奥にあるからいってくるといいにゃ~」
「……違う」
なんでコイツらは俺をそんなにトイレに行かせたいんだよ。あれか? アンタらのトイレは異世界にでも繋がってるのか? だとしたらもうホントに案内してくれよ。きっとここよりはマシな世界だろうからさ。
「ならいいのにゃー。安心したのにゃ〜」
だがもちろん俺にはテレパシーなんてモンは使えないので、猫は勝手に話を進めて自分の名を告げてきた。
「
ふむ。吾輩系猫だったか。コイツも属性がてんこ盛りだな。
「あ、ああ……よろしくな、ねこの」
しかしそんな俺の手を取ることなく、ヨシツネは会長たちの方に振り返って、
「まひるー、こいつはアホなのかにゃ? 〝猫の〟が名字のわけないのにゃ。普通わかるのにゃ?」
「ダメよ、ヨシツネ。今のは彼の
「にゃにゃにゃ! それは悪いことしたのにゃ、許してくれにゃのにゃー」
「……いや別にいいよ」
「ありがとーにゃのにゃ。吾輩は飼い猫じゃにゃいから名字はまだないのにゃ。ただのヨシツネなのにゃ」
「……そうか、悪い。改めてよろしくな、ただの」
「……」
「……」
「……」
何か言ってくれよ。
「にゃははっ紅葉ぃ、コイツ馬鹿にゃ。
「……先輩。それは
「はんッ、
「許してあげなさい、ヨシツネ。彼はちょっとユーモアの才能がないだけなんだよ。
「にゃにゃにゃ! それもそうにゃ! 悪かったのにゃケンジー、吾輩も応援していくのにゃー」
「……」
せめてもの抵抗にとちょっとボケてみただけなのに酷い言われようだな。
「……よろしくな、ヨシツネ」
「――いてぇ! て、てめえ! なにしやがるッ!」
「にゃー、それはこっちのセリフにゃー。ケンジは
「な……」
おいおいこの猫、まさかの体育会系かよ……。なにが悲しくて猫を先輩って呼ばにゃならんのだ。
「馬鹿言うにゃ、なんで俺が猫に先輩をつけにゃきゃいけねえんだ。ヨシツネでいいだろ、別に」
「よくにゃいのにゃ〜。いいから吾輩のことはヨシツネ先輩と呼ぶのにゃ」
「いやにゃ」
「……先輩、猫語が移ってる。かわいい」
おっといけね。ヨシツネの独特な言葉遣いにつられていたようだ。ごほんっ、あーあーテステス。よし、これで戻ったはずにゃ!
「――おい」
っと、いつのまにか俺の背後にいた木下が肩に手を置いて小声で囁いてくる。
「悪いことは言わねェ……師匠に従っとけ」
「な、なんだよ。ってか師匠ってお前」
「忠告はしたぜ? オレはべつにテメエがどうなろうと知ったこっちゃねえが、紅葉が悲しむかもしれねえからな、チッ」
「お、おい……」
木下は俺のもとから去っていく。背中から
「……」
俺はその背中を信じることにした。
「……よろしく、ヨシツネ先輩」
「うむうむ、よろしくにゃのにゃー」
ヨシツネ先輩の声が
俺は恐ろしい存在と知り合ってしまったのかもしれない。
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