第11話 木下弁慶との邂逅
しかしそんな俺の気の迷いも長くは続かなかった。
どうやら俺はまだ非日常の本気を
「それじゃあ
「……あります、か?」
ラボに来て、どれくらいの時間が経っただろうか。そろそろ学校も終わる時間のはずだが、まだまだ俺の疑問は
それでも疑問はないかと
「ああ、訊きたいことは山ほどあるが……まずはそろそろ教えてくれよ。――そもそも、アンタたちは一体何者なんだ?」
俺はなんだかんだこの場に残り続けている春山を見る。会長も会長でよく考えなくてもおかしいが、春山の異常性はもはやそんな
空を飛べるなんていうのはとても人間にできることじゃない。
「
「……真昼」
「わかってる。どっちにしろ、彼に隠す意味はもうないしね」
不安げに
「そうだね。アタシたちの正体について、キミにもわかるように言うなれば、——
「……は?」
会長たちの謝罪によって非日常を受け入れる覚悟を決めた訳だったが、また新たな用語の登場に俺はさすがに
「超能力者って……アンタそれ本気で言ってんのか?」
「本気も本気、
はは、宇宙人ときて、次は超能力者か。どうやら本当に俺の世界は常識をなくしてしまったらしい。あるいは気付かないうちに
しかし世界線を越えようが、
たとえ認めがたい現実だとしても、考えることを放棄すればいずれ
俺は
「はは、常識で考えろよ。超能力者なんて実在するわけないだろ」
「……あのね、キミ馬鹿なの? 常識ってのは
「うっ……」
「というかキミ、ついさっきあんなことがあったっていうのによく疑えるね。寝ぼけてるのか、記憶から消しているのか、あるいは本当に忘れているのか……まあいいか、どっちでも。……あーあ、なんか見直して損した気分ね。結局キミは
会長は
「……悪いな、俺はどちらかと言うとリアリストなんだ。実際に見るまでは信じないし、実際に降りかかったとしてもまずは夢だと考える。俺を納得させたいんならタイムマシンでも持ってくるんだな、ヘッ」
「……真昼。先輩、またなんだか目がイっちゃってるよ?」
「うーん。まァ、浅嶺くんの目を一発で覚ます方法はあるけど、そうねぇ……とりあえずはまた——」
「——ういっす、帰ったぜェ」
意見が
しかしデカい。一九〇センチはあるんじゃないか? そのデカさから会長たちの保護者かと思ったが、違うようだ。よく見ると結構
もしかすると俺より年下なんじゃないだろうか。中学生っぽいイタさを感じる。
だがそんなことは
「おかえり。早かったわね」
「……おかえり」
「おう、ランニングがてらな。真昼たちこそ早かったんだな――」
と、そこで大男は俺を見る。ラボに
「あァん? 誰だァこいつ?」
どうやら見かけ通りの
「彼は
会長はまず大男に俺の紹介をし、それから俺を見て、
「で、こっちの
ふむ、アレは狼のモノだったのか。なるほど、言われてみると
……。
……いや、なに当たり前の様な顔をして、狼の獣人だよ、って言ってんだ。知らねえよ、そんな
って待てよ、ベンケイ? 名前に何か引っ掛かるものがあった。ベンケイ、どこかで最近聞いた気がする。
「ちょ、待てよ真昼! 何だよ新メンバーって、オレはンなこと
あ、思い出した。
「——ああ、弁慶のよわむしって……」
「ああ?」
とたんギラリとした
「テメエ、
心の中だけのつもりだったが、つい口が
「お、落ち着けって。
胸ぐらを掴み上げられたまま慌てて
乱暴に振り払われた俺が
「……先輩に乱暴はやめて」
「ちッ、くそ、お前まだあンなコード使ってんのかよ。いい加減変えろよ」
「……変えない。事実だから仕方ない」
春山に向かって木下が言うが、春山も
「紅葉、テメエ……」
「……いいから、先輩に謝って」
「チッ、知るかよ。なんで俺が謝らなきゃいけねえんだ。そもそもお前があんなコードを使ってンのがワリィんだろ」
もっともなセリフだ。しかし春山はどこか得意げな表情で、
「……だって弁慶は泣き虫。すぐ泣く」
「む、昔の話だろッ! 今はもうンなこねえ! オレは強くなったんだッ!」
「……でもわたしより弱い」
「弱くねえッ! オレはもうお前にだって負けない!」
「……この前のこと、もう忘れたの?」
「ぐッ……アレはだって、お前が……」
「……言い訳は男らしくない」
「このッ……」
ふむ、どうやら春山に
「チッ——五年だッ! あと五年で追い抜いてやるからな! 覚悟しとけ!」
「……うん。でもそれ、五年前にも言ってた」
「まぁ待ちなさい、弁慶。ちょうどよかったわ。ちょっとアタシに協力して行きなさい」
「……ああ? んだよ、オレは忙しんだ」
「どうせ筋トレするだけなんでしょ? いいからお姉ちゃんを手伝いなさい」
「あーくそッわぁったよ! チッ、めんどくせえなァ」
口ではそう言いながらもなんだかんだ協力するアイツは良いやつなのだろう。それとも
「はい、コレ持って。で、あっちに立ってて」
「なんなんだよ、たくぅ」
会長はなにやら木下に手渡し、部屋の
「よし、それじゃあ弁慶! 今からアタシの力を使うから構えてなさい!」
「お、おい真昼ッ、ホントに大丈夫なんだろうな!?」
「大丈夫だってば! お姉ちゃんを信じなさい!」
配置についた木下に会長はそう言って、それから俺に向かってウインクをしてくる。
「いい、浅嶺くん? これから超能力の
そして会長は左手を前に突き出して、
「——アポート!」
と
「……ふぅ、どう? 凄いでしょ?」
コップを見せつけてくる会長に、俺は
「いやどうって言われても……ただの手品だろ? ワイヤーかなんかを仕込んでたんだろ?」
「もうッ、アンタの目はどこまで腐ってんのよ!? 信じらんない!」
「いやだって……」
「そんなに疑うんなら、ほら、調べて見なさいよ!」
ふくれっ
だが確かにコップには何の仕掛けも見当たらなかった。
「ね、凄いでしょ? コレがアタシの超能力——
えっへんと得意げに胸を張る会長はまるでハトだ。
まぁ凄いと言えばスゴイ。だが正直に言えば、いまいち地味だと思う。
〝十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない〟とは
俺からすればあのテントウ虫のデバイスといった会長の技術のほうがよっぽど魔法と呼ぶにふさわしいと思う。
俺に納得させたいのであれば、例えば春山のような……いやダメだ、それは考えてはいけない。俺はそれを忘れたという設定なんだから。
「とにかく、俺は信じないぞ。何が超能力だ。何がテレキネスだ。大方、俺を
「このっ、人が
会長はそう言うと、ガサガサと机をあさり何かの袋を取り出した。そしてその中身を木下に向かって放り投げる。
「あん? んだよ、これ?」
「……クルミ?」
木下が受け取ったモノを見て春山が呟く。ふむ、確かに
「さあ彼に見せてやりなさい、弁慶! アンタの力を!」
「……オレを巻き込むなよ」
コリコリと片手で
「――やっちゃえ、
子どものようなセリフを口にする。
「……はァ、しかたねえなァ……」
やれやれとばかりにため息を吐いた木下は、ちらりと俺を見て、そのまま拳を握りしめる。
クルミは
「フッ、見た? これこそ彼が獣人たる証明よ♪」
わーすごいパワーですねー。
「ふんッ、
腕を組みドヤ顔を浮かべる会長はまるでバカだ。バカと天才は
しかし会長、性格がどんどん
いずれにしろ、俺に非日常を認めさせるには致命的な何かが足りない。
俺は無意識に、ついつい春山の姿を目で探してしまう。
「……おいしい」
春山は木下が
「……先輩も食べます、か?」
「……ああ、せっかくだから
久しぶりに食べたクルミは結構美味しかった。
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