第12話.お兄様にご相談です
「お兄様……わたくし、ユナト王子の婚約者をやめたいのです!」
王城から帰った後。
私はお兄様の部屋をアポ無しで訪ね、そう相談を切り出した。
だってこんなことを相談できる相手は他には居ない。お父様もお母様も王子との結婚に反対するわけがないし、友達のリィカちゃんに至っても「素敵です」と顔を輝かせるばかり。
するとお兄様は向き合っていた書物机から振り返り、あははと苦笑した。
「直球だねリオーネ。今日のお茶会は楽しくなかったの?」
「えっと、それは……」
私は思わず言いよどむ。
今日、私はお城に行ってユナトとのお茶会の時間を過ごした。
お茶もお菓子も美味しかったし、お茶会自体は結構楽しかった。
でもユナトはお茶会の最中、やたらと私のことをじじーっと見つめてきて困ったのだ。
あまつさえ人のことを「野生動物」などと例える始末。こんなに可愛い令嬢を捕まえておいて野生動物とは!
何て口が悪いのだ、とぷんすかした私はマカロンタワーを崩しては食べ、崩しては食べ、結果的にお腹を壊した。夕食も一人分しか食べられなかったくらいだ。
「……お茶会は楽しかったのですけれど。でもやっぱり、わたくしに王子の婚約者が務まるとは思えないのです」
「でもユナト君は、リオーネのことを気に入っている感じがするけどね」
「それは間違いなく気のせいですわお兄様」
「そうかなぁ」
そうです、気のせいです。
まぁ私も確かに、『恋プレ』をプレイした時の印象よりも、現在の私に対するユナトの対応はちょっぴり柔らかいような気がしなくもないんだけど……たぶん気のせいです。
そうやって油断したところを追放されるかもしれないし、最悪の場合は殺害されるかもしれないからね。油断は禁物だ。
「僕としては可愛い妹を得体の知れない男にやるよりは、ユナト君はまだマシかとは思うんだけどね。本当は誰にもやりたくないのが親心だけど」
「可愛いだなんて、お兄様ったら!」
お兄様に褒められると嬉しすぎて元気が出る!
「ああ、ユナト君といえば、明日あの子が我が家に遊びに来るんだったね」
「え? あの子とは?」
私が首を傾けると、お兄様が「聞いてなかったの?」と目を丸くした。
「夕食のときに母さんが言ってたじゃないか。エレノールちゃんが明日来るって」
「……えっ! エレノールが!?」
私は借りていた木椅子から勢いよく立ち上がった。
エレノール・アサット。
かなり濃ゆい人物ながら『恋プレ』には未登場。しかし個人的にはかなり因縁のある相手だ。
エレノールは桃色の長い髪をツインテールっぽく結んでいて、顔だけなら本当に可愛らしい女の子だけど……高飛車な貴族っぽいツンツンした雰囲気が全身から出ているので、何というかかなりとっつきにくい子だ。言っちゃ何だけど、ゲームのリオーネにかなり似ている感じ。
そしてアサット家はカスティネッタ家と同じく、三大公爵家の一角。
私とエレノールは、同い年ということもあり生まれた頃から何かと比べられることが多かった。お互いに水色の髪と瞳、桃色の髪と瞳という、目立つ外見をしていることも一因だろう。
アサット家の人達も、公爵家筆頭とされるカスティネッタ家を何かと敵視して嫌味を言ってくるし。私の両親やお兄様は、軽くいなしてる感じなんだけどね……。
そんなエレノールがなぜ我が家に? 慄く私にお兄様が説明してくれた。
「手紙には母と共に近くに立ち寄るのでご挨拶に伺います、みたいな曖昧なことが書かれてたみたいだけど……十中八九、ユナト君のことでリオーネに文句をつけにきたんだろうね」
ああ、やっぱりそうかぁ……。
そう、エレノールはリオーネ――以前のリオーネと同じく、ユナト大好き令嬢の一人だ。
二人はしょっちゅうユナトを取り合い、ユナトは困り顔で対応していたが、笑顔の裏でたぶんすっごくイライラしていたことだろう。それほどエレノールも昔のリオーネもしつこい子だったのだ。
ユナトの婚約者候補として最も呼び声が高かったのが私とエレノールだったそうだが、結果的にユナトは私の婚約者となってしまった。
エレノール、それにアサット家の皆さんはこの事態にかなりお怒りなのだろう。それで直接乗り込んできて文句を言うつもりなのだ。
「面倒くさいですわね……」
私は思わず呟いた。ああ、昼間のユナトの口癖が移っちゃったよ。
私の率直な物言いにお兄様は吹き出した。
「あれでエレノールちゃんも弱いところがあるから、リオーネにそんな風に言われたら泣いちゃうよ」
「エレノールなど泣かせておけばいいのですわお兄様。それより明日、どこかに遊びに行きませんか?」
「うーん、それは確実にエレノールちゃんが泣くだろうなぁ……」
そうかな? エレノールならどちらかというと、地団太を踏んで怒りそうなイメージだけど。
明日お兄様は予定があるそうなので、私は王都に大通りにあるウッドブロウ大商会を訪ねようかな、と計画を立てた。
苦手な相手が来るってわかっているのに、のんびり家で待ち構えるなんて嫌だからね。
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