第4日 カゲツ 

 小鳥がとんできて男の頭にとまった。男の動く力が残っていないことを察知してでもいるのだろうか。男の三日月のような瞳は暗くを沈んでいる。この男の名はカゲツという。


 (くそ・・・あいつらの声が遠くなっていく)カゲツの体は動かないが脳はまだ思考できる。


 (負けたのか・・・俺は・・・まだ少しも目的・・・を達成できて・・・ないのに・・・・俺には力がないから・・何もできない・・・そうだ・・あの時だって・・・・・力がないせいで・・・くそぅ・・全然俺は変われていないんだ)カゲツは自己否定にさいなまれている。


 (くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ!あのときからずっとずっとだ!変われてない。・・・・・・・・)あのときとはどのときだろうか、きっと今カゲツの脳内では彼の言うあのときがフラッシュバックを繰り替えしているのだろう。そして、カゲツはこのまま自己嫌悪にのまれて二度と這い上がれず消えてしまうのだろう。カゲツの頭の中は(変われてない、変われていない)と呪いのようにフラッシュバックとともに唱えられている。かすかに見えるヒニチたちの姿が遠のいていく。そのとき、カゲツは頭の中の呪いの言葉に引っかかった。


 

 頭にいた鳥が急いでどこかに飛んで行く。その次の瞬間、カゲツのまわりをどす黒いものがビリビリと走りはじめた。そして、カゲツは小声でぶつぶつとつぶやく。なにが彼におきたのか。


 「ああ、そうだった、俺は何一つあのときから変わってないんだった。憎い憎い憎い。目に映るすべてが憎い。俺の殺意はあの時のままだ。」


 カゲツは大きな声で

「待て!」

と叫んだ。


「まだ立てるの・・・」


 ヒウが振り向き言った。カゲツの目は前髪で影になっているがはっきりと見開いていた。


 「ここはどこだと思う?」


 カゲツは歩き続けるヒニチに質問を投げかけた。


 「地獄じゃねーの?」


 ヒニチは足を止め振り向き答えた。そして、カゲツは続けた。

 

 「ここにいる奴らは悪人ばかりだ。中には織田信長やナポレオンだっている。確かに地獄というのがふさわしいのかもしれない。」


 ヒニチは発言しようとしたが、カゲツの次の言葉にかき消される。


 「なのに!!ここにいる奴らはのうのうと生活している。お前のそばにいる女だってそうだろ。」


 たしかにヒウもここにいるということは悪人で木の実や猪の肉を食料としてとっていたことからここでは普通の生活を送っていたのかもしれない。


 「やっぱり、地獄なんてなかったんだ」


 カゲツは大きく息を吸い続け言った。


 「なぜ人をいじめ、他人に迷惑をかけたやつが成功してたたえられる?なぜ人を殺したような奴らが普通に生活できてる?なぜそんなやつらはここ地獄でも絶望をしらないままなんだ?なぜ被害者が傷を負って生き続けなければならないんだ!!おかしいだろ!加害者には、被害者の傷、それ以上の傷をつけられるべきだろ!!!」

 

 カゲツの迫力にヒウとヒニチは圧倒される。カゲツの口から血がドバっと出てきたが、なおしゃべろうとする。


 「だから」


 歯がギリとかみしめられる。


 「俺はここに来たんだ!!ここにいるやつらをすべて消す!俺が地獄になってやる!!」


 ヒニチは何と呼ぶかはわからないぞくっとした感覚に襲われた。しかし、カゲツはふらふらとし、咳込んでいる。気迫だけのようだった。


 カゲツの手に黒い稲妻が走り、そしてアイスピックを握った。ヒウの言っていた、殺気で物質を作ったのだろう。


 「覚悟しろ。」


 カゲツが音もなく地面をけった。するとヒニチの頬にいつの間にか、切り傷が付き血が流れた。


「っぷねー」(急に速くなった)


 カゲツは周りの木々をスピードを利用し飛び回りはじめた。ビュンビュンと飛び回るが静かだった。ヒウには姿が捉えられなかった。そして、次の瞬間、カゲツはヒニチにみぞおちを殴られていた。


 「けど、速くだ」

 

 なんとも無慈悲だ。カゲツは確かに精神的なもののせいか速くなっていた。しかし、ヒニチにとっては微々たるもの。逆に、スピードをつけとびかかった分今までのダメージとは計り知れないものだろう。カゲツは手に持つ武器を落とし、ザザザザザっと音を立て転がった。


 「力の差だ。わかったろ。じゃあな。」


 ヒニチはなんともつまらなさそうな声で言った。力の差つまりなんらかの奇跡がないとその差は埋められない。よって、その差は勝ち負けに起因する。いくぞとヒウに声をかける。しかし、ヒウのはいという返事が返ってこなかった。なぜだろうか。ヒウのほうに目をやるとヒウは目も口を大きく開けている。そして、何とか出たかのような声で

「う、うえ」

といった。


 ヒニチも目線を上にあげると、絶句した。


 見えたものは赤い空、ではなく1000を超えるほどの宙に浮くアイスピックだった。まだ、電気のようなものが走り新に形成し続けている。


 転がっていたカゲツはニヤリと笑っている。


 「早く防ぐものを作ってください!!」

 ヒウが叫んだ。


 「作るったってどうすんだよ」


 「殺気を持ち明確に欲しい物質を想像すればできます。」


 とても簡潔。ヒニチも目を閉じ手を突き上げ言われたとおりにしてみた。

(こうか・・・)


 「急いでください」 ヒウが急かす。誰しもが無駄だとわかっていても口に出してしまうだろう。


 「わかってるよ」 ヒニチは怒鳴った

 

 カゲツは人差し指と中指を伸ばした手を突き出す。そして、クイっと指をふり下ろした。すると、いっせいに宙に浮いていたアイスピックがダダダダと勢いよく落ち砂埃をあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る