第1日 出会い

  ヒニチの物語の第1章が幕を開けた。


 バシャ、ヒニチの右手が岸についた。左手も岸にそえ、体を持ち上げ地上に這うように出てくる。ゲホゲホ、口から水が出てくる。体は重く、息が苦しそうだった。


 (水の中にいたのか?)


 しばらくし、体を持ち上げ四つん這いになり、水が入らぬよう気を付けて目を開ける。

 

 「ここは・・・?」


 周りに誰もいなかった。自分の体には腰に縄文人がつかっていたような布切れが巻かれていただけだった。はあ、はあ、はあ、鼻と口で空気を一生懸命吸う。空気は生暖かくとても気持ち悪い。グシャ、右手で土を握る。土は普通の土のように見えるが感触は凍っているようだった。視線を近くの木々にむける。木の葉はまるで針のように鋭利である。顔を上に向ける。ヒニチは息をのんだ。空は真っ赤であった。とても幻想的だ。山の近くには黒い月のようなものがあり雲が少しかかっていた。(俺が出てきたところは?)という疑問が頭をよぎりヒニチは振り返った。


「ここは・・・地獄か・・・」

 

 目にした光景によって反射的に言葉がヒニチの口から出てきた。海、いや、これは池だ。池の水は血のように赤かった。空の赤さが水に反射して見えると考えるものもいるだろうが明らかに赤の種類は異なっていた。ヒニチの口角が少し上がった。


 ヒニチは針のような木の葉のついた木々の並ぶ森へ体を向けた。


 「この中はどうなっているんだ?」




 足が少し重く感じる。1時間は歩いただろうか。生き物の骨がところどころに落ちている。動物はいるっぽいな。高木は針のような葉をもつものばかりだったが、低木は普段見かけるようなものがおおい。(まだ、森は抜けないのだろうか)という疑問が頭の4分の1を占め始めた。そのとき、ゴソゴソ近くの低木が音を鳴らした。

 

 蛇でもいるのだろうか。ヒニチは少し身構えた。が、出てきたのは蛇のようではあるがこれはなんだ・・・?長さは短いが銅の部分は膨れている。ヒニチは少しの間をおきこれはツチノコだと考えた。ツチノコはいつの間にやらヒニチの肩にのぼっていた。するとすぐに、バキバキバキと音を立て、低木の奥から大きな猪(これはだれが見ても猪だろう、だが大きさは通常の倍はある)が突進してきていた。肩にいるツチノコはおびえているようだった。こいつを追ってきたのだろう。

 

 「地獄の、お手並み拝見だな・・・」

 

 ヒニチは戦闘態勢になった。20m、18m、15m、10mと猪は近づいてくる。しかし、あと5mとなった瞬間、猪の動きは止まった。(なんだ?)ヒニチが疑問に思った直後、猪の体を無数の針の玉が猪に群がり、猪は悲鳴を上げる。ほんの数秒で、猪がそもそも針を全身に持つ生き物のように見えるほどに針の玉は猪にまとわりついた。少しすると猪が倒れ、針の玉が離れていった。猪は死んでいて穴が無数にあいている。とても痛々しい姿をしていた。無数の針の玉がヒニチのほうを向く。顔をちらりと覗かせた。そして、ヒニチはこの針の玉の正体を理解した。それはハリネズミだった。しかし、知っている針鼠よりも針がずっと長く鋭いため危険だ。(みてくれはヤマアラシの針をもつ針鼠といえばわかりやすいだろうか)しかし、ハリネズミたちはヒニチに襲い掛からなかった。なわばりに踏み込んだのが猪だけだったからだろうか。それとも、危機管理能力からくるものだろうか。ヒニチはつばを飲み込みここの怖さを実感した。が、またも口角が上がる。ツチノコはヒニチのおかげで助かったと思い込み彼から離れようとしなかった。そしてヒニチも満更でもなかった。生き物から好かれて嫌な人はなかなかいない。



 先ほどの状況からまだ15分もたっていない、そのとき、森にうー、、うー、、うーー、、とほとんど聞こえないほどの小さなうなり声がした。そう、声だ。声とは人が発するものである。つまり、人が近くにいるということだ。ヒニチもその小さなうなり声に気づいた。耳を澄まし、どこからなっているのかを感じ取る。そして、ヒニチは声のするほうへ駆け出した。ツチノコは振り落とされぬよう必死にくっついている。ハリネズミの巣があるかもしれないなどの注意を欠いて、低木をガサガサと抜けていく。しかし、そのまま無事に道なき道を超えて大きな岩のある木々に囲まれた広間に出てきた。


 そこには16歳ほどの女の子が岩の前で縛られ口をふさがれていた。あごのあたりまである長い前髪は視界は開けるよう目をよけ3つに分けられている。顔は美人というよりかわいいが正しいだろう。まだ、子供が抜けきっていない。そして、女の子の目は星のような瞳孔が飾ってあった。

 

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