地獄の日日(ヒニチ)
バル
第0日 序章
とある時刻とある場所にヒニチはいた。
周りに誰一人いない。静寂が男をつつみ、男の息切れがとても際立つ。苦しそうだ。男は閉じていた目を開く。瞳孔はまるで太陽のようであった。
「はあ、はあ、はあ、・・・ここは・・・地獄か・・・?」
ヒニチの声がまたも際立った。
時をさかのぼる。いや、場面をかえよう。
ヒニチは最強であった。彼が16歳のときのことだ。
キーコー、キーコー。ブランコの音が響いていた。街灯が公園の一部をてらしている。
「ヒニチぃ、よくもやってくれたなーうちのもんをよぉーー!!」
リーゼントの大男はたくさんの坊主どもを引きつれ、夜に似合わない大きな声を轟かせた。手には金属バットを持っている。ブランコと鉄棒のみのちいさな公園はすぐに人で満ちた。ガシャン、ガシャ。ヒニチはブランコから飛び降りた。
「へー、ボスははげてないんだなあ。なんで?」
ヒニチは笑い交じりに口にした。
「俺は学校でまじめに授業うけてるからな。」
リーゼントの大男は自慢げに答えた。が、それをヒニチは鼻で笑う。
「勉強は学生の本分だ。んなことより、この人数でしかも俺様が来てやったんだ、後悔してももう遅いぞ。」
「暇つぶしくらいにはなってくれよ。」
ヒニチは指の骨をパキッと鳴らし言い返した。
リーゼントの大男は持っている金属バットを前に突き出した。
「お前ら、殺れ!」
周りの坊主たちがとびかかった。
15分ほど経過しただろうか。月をバックにヒニチは独り立っている。彼のまわりにはたくさんの人が横たわっていた。公園のフェンスにもたれ力なく座り込んでいる者や鉄棒にはハンガーに引っ掛けるズボンのようになっている者もいた。
なんと彼は53人の不良グループを15分で壊滅させていた。
「つまんねー・・・」
ヒニチは舌打ちをした。
またも場面が変わる。
ヒニチは最強だった。彼が19歳のときのこと。
チュンチュンとヒニチの家の近くで小鳥が鳴いている。優雅な朝にはとてもふさわしい。ヒニチはソファに座り空を見つめ、朝食のパンを食べている。
「本日のニュースです。昨夜、〇〇市の空き家住宅で20歳の男性3人が18歳の少年に刺殺され・・・」
テレビはたんたんと情報を垂れ流していた。
「続いてのニュースです。19歳の・・・」
パンくずをぽろぽろこぼしているヒニチがぴくッと反応を示した。
「ヒニチ選手が史上最年少で総合格闘技の世界大会UFCで優勝という快挙を成し遂げました。前回のチャンピオンのジョナサン・ジョージ選手はっ・・・」
さきほどのニュースを淡々と読み上げていたアナウンサーの声からは驚きを感じ取ることができた。なんと、彼は19歳という若さで総合格闘技の世界チャンピオンとなっていたのだった。だが、その次の瞬間テレビの画面はプツンと音を立て消えた。黒色のテレビ画面にはヒニチの姿が映し出されていた。
「つまんねー・・・」
ヒニチは舌打ちをした。
さらに、場面は変わる。
ヒニチは最強だった。彼が20歳のときのことである。
アフリカのサバンナのとある場所では、かんかんと日が照り、さまざまな動物のすがたで満ちていた。像やキリンが木についている葉を食べていたりまた別の木の陰には2匹の子供のライオンと2匹のメスのライオンそして1匹のたてがみのついたライオンが休んでいる。少し離れたところには、2匹のハイエナは岩の影に隠れ、その視線の先には3匹のしまうまがいた。ハイエナは気づかれぬよう神経を研ぎ澄ましているようだ。次の瞬間ハイエナたちは視線の先の獲物におそいかかり、2匹のシマウマを捕らえた。そして、ハイエナが捕らえた肉に口をつけようとした。だがそのとき、2匹のメスライオンがハイエナたちに襲いかかった。そして、肉を横取りしたのだった。ハイエナたちは自分たちで手に入れたはずの肉がなくなるのを横で眺めていた。ライオンたちが去ったあと、残った骨にこびりついた肉を食べ始めた。ハイエナとは実際このような悲しい生き物なのだ。
こんな日常の風景のなかでヒニチがスタスタと地平線から姿を現した。足元は蜃気楼で揺れている。その場にいた動物たちはみな遠くにみえたヒニチに気づいた。そして次の瞬間、木の葉を食べていた像やキリン、木陰からでようとしなかったたてがみのついたライオン、食べ物に飢えたハイエナもいっせいに逃げ出した。動物ぼ危機管理能力はすごいという。なんと、動物ですら彼の相手になる者はいなかったのだ。広いサバンナのなかにヒニチは独りで立っていた。
「つまんねー・・・」
ヒニチは舌打ちした。
ヒニチは最強だった。だが、彼はあっけなく死んだ。
ここで、ヒニチの物語の序章は終わりを迎えた。
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