第4話 僕は仕事ができない③:24歳・膝と酒

警察学校に入ってからちょうど一ヶ月が経った頃の柔道の授業の時だった。


寝技の時に、右の膝から変な音がした。


そして、みるみる右足の自由が効かなくなった。


いつか治るだろう…明日には治るはずだ…祈るような気持ちでコールドスプレーを膝にかけて夜眠りにつくのだが、次の日、朝の集合の時の体操やジョギングにもついていけない…


そして集団の中でも、

「下河原のやつは訓練についていけないやつだ」


と仲間たちからみなされ、「劣等生」のレッテルを貼られた。


「下河原、お前、本当は大丈夫なんだろう!楽をしようとしてるんだろう!」


と「教官」と呼ばれる先輩警察官たちも、ドンドン厳しい言葉を投げかけてきた…


もう何が何だかわからずに、やがて、その班の飲み会にすら呼ばれなくなった…


「怪我して訓練に参加できない奴が酒なんか飲むんじゃねぇ」


確かに、なるほどその通りだ。


しかし当時の俺は、酒が頼りになってしまうほどに精神が参っていた


…飲みたい…飲みたい…飲みたい…


学科授業の時ももう土日に実家に帰ること、休むことのことだけを考えるようになり、内容など入ってこない…


警察学校を辞めたかった。


警察官そのものに魅力など感じる気力は完全に尽きていた。


とにかく、紺色の通気性の悪い背広と、首を締め付けるネクタイが拷問に思えた。


あれから十数年、警察を辞めた今でも、警察学校のことは夢に見る。


全ては自分が蒔いた種だが、結果、夢にうなされている。


救いなのは…苦笑いしながらこうして文章にできるようには精神的には成長したということだ。


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