第5話 僕は仕事ができない:24歳・現場配属

 壊滅的な成績で、壊滅的な評価で、壊滅的な人間関係の中警察学校を卒業した。

 何が何だかわからない、その時はもう「終わった」という感慨すらなかった。

 

 同期も、教官と呼ばれる先輩警察官たちも、誰一人、もはやこちらに前向きな顔を向けることはなかった。


 しかし、それでもその時の自分を支配していたのは

 「就職したのだから、頑張らねば、働かねば」

 という文字通りの「使命感」だった。


 警察学校を卒業すると、そのまま家には帰らずに、赴任地の警察署に赴く

 車に乗ってアクセルを踏む、その時も右の膝がズキリと痛んだ…


 もう終わりにしたかった。


 本当は、警察も何もその時点ではもうどうでもよかった、やりたくなかった…家に帰りたかった…


 誰の怒号も、嫌味も聞こえてこない環境で、不気味な呪いにでもかかったかのように痛み続ける膝を治して、心から安心して布団で眠りたかった。ゆっくりと食事がしたかった…


 配属を命ぜられたのは、地元都道府県の北部にある沿岸の警察署、たった1人の単独配置というやつだ…


《もうわかった…警察が俺に向いていないことはわかったから、どうか許してくれ…》


 それが当時の俺の本音だった


 東北自動車道に乗って、そして北へ北へと北上する…

 《嫌だ》

 《うちに帰りたい》

 《もうこれ以上怒られたり、嫌味を言われたりは耐えられない》

そう思いながらも、心と体はバラバラだ、足はアクセルを踏み続けるし、腕は目的にへと向かってハンドルを回し続ける


 グフウウウ…キュウウウウ…


 喉の多くから奇妙な声が出始めた

 奇声を車の中であげながら、24歳の俺は次の「修羅場」に、壊れると半分わかっているにもかかわらず、どんどんと近づいていった

 

 10月…秋になっていた

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