第10話

 姫子のように高次の霊的存在と交信できる能力者をスピリチュアルの世界ではチャネラーという……らしい。

 以前の俺なら「胡散臭え」と一蹴しただろうが、どうやら姫子は本物のような気がしている。

 あれほどスピリチュアルを嫌っていた子だ。それが、「守護霊の声が聞こえる」なんて嘘はつかないだろう。

 しかし、いざ、姫子以外に本物のチャネラーを探そうとすると、ドツボに嵌る。どいつもこいつも、本物のようにも、偽物のようにも映る。

 俺は仕事が終わった後だけではなく、昼休みの時間まで使って調べていた。

「あれ? 相沢さん、スピリチュアルに興味があるんですか?」

振り向くと、後輩の東堂理沙が肩越しにPCの画面を覗き込んでいた。

「男の人がスピリチュアルを信じるなんて、珍しいですね」

「そうか?」

「ええ。やっぱり、男の人って現実的で合理的じゃないですか。あまりいないですよ。——で、カウンセラーを探しているんですか?」

「カウンセラーっていうか、チャネラーを探してる」

「相談事ですか?」

東堂が隣の席に座った。

「相談事とは、ちょっと違うかな」

「じゃあ何です?」

「近所の子どもがチャネラーみたいだから、仲間を探してやりたいんだよね」

「わ、すごい! 会ってみたいです!」

「——ん〜、どうかなぁ……」

「お願いします!」

彼女は身を乗り出した。そんなに会いたいのか——。

「スピリチュアルの世界って、本物がすごく少ないから貴重なんですよ。先輩が本物だと思ってるような子なら、かなり有望です」

「——そこまで言うなら、本人に聞いてみるよ」

「やった、ありがとうございます!」

東堂は小さくガッツポーズした。

「それはそうと、他に本物のチャネラーを知らないか?」

「この人は本物だ、って言われてる人が何人かいますよ。有名どころだと、パドメ網田とか」

この前、京一さんから聞いた姫子の母親だ。本当に有名人らしい。

「他には?」

「あと東京周辺だと依田さんとかかな。みんなから“マスター”って呼ばれてます。でも、二人とも予約がいっぱいで、なかなか会えないそうです」

数少ない本物には人が集まるということか——。

「でも、安心してください。ひとり、とっておきの人がいます。わたしもたまに見てもらうんですけど、この人は間違いなく本物ですよ」

東堂が自信ありげに胸を張る。

「会えるのか?」

「はい。一見さんお断りなんで、誰かの紹介じゃないと見てもらえないんです。わたしが紹介しますよ」

「ありがたい。世話になるよ」

「今夜にでも連絡を取ってみます。その代わりと言っては何ですが、近所の子どもさんに会わせてくださいね」

「家に帰ったら頼んでみる」


 家に帰り、早速、綾瀬家に電話をかける。

「もしもし、姫子か?」

『あ、悠一、どうしたの?』

「会社の同僚にスピリチュアル好きの人がいてさ、本物のチャネラーを紹介してくれるってさ」

『わー、ありがとう。楽しみだね』

「それで、その同僚が姫子に会ってみたいってさ。どう?」

『別にいいよ。大丈夫』

姫子はあっさり承諾。東堂とも調整して、次の日曜に会わせることにした。

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