第6話

 俺は、姫子を肩に担いだまま歩いた。

 しばらくして、「——降ろして」と姫子が呟く。膝を屈めて彼女を降ろす。

 姫子は何も言わず、家に向かって歩き始め、俺もその隣に並んだ。

「姫子、さっきのはやり過ぎだ」

「……わたし、間違ってないもん」

「それはわかるけど、周りの人の気持ちを考えないと」

「………………」

「俺さ、もうスピリチュアルカウンセラーのところについて行くのを止める」

「——え?」姫子が驚いて顔を上げた。

「どうして?」

「さっき、やっと実感したんだ。世の中には、宗教やスピリチュアルを心の支えにしている人もいるんだって。だから、無闇矢鱈にそれを否定するもんじゃないって」

「でも、あの人たちの方が間違ってる——」

「そういう問題じゃないんだよ。人それぞれにいろんな考え方があるんだから、尊重してあげないといけないって話」

「嫌っ、そんなことできない! 宗教は百歩譲って許してあげるけど、スピリチュアルはこの世から無くしてしまうの!」

「…………こんなことを言うと、姫子を怒らせてしまうと思うけど——。スピリチュアルって、全部が全部嘘ばっかりなのかな?」

「——何、どういうこと?」

彼女が眉間に皺を寄せた。

「一緒にカウンセラーのところに行くようになって、俺なりにスピリチュアルのことを調べてみたんだよ」

「…………それで?」

「スピリチュアルって、特定の教祖がいないだろ? シルバーバーチだっけ? そういう有名な人は何人かいるみたいだけど」

「——それがどうしたの?」

「うん——。なんていうか……、今の時代に集中して、いろんなところで——つまりは同時多発的に同じような教えが広まるって、やっぱり何か根拠とか理由があるんじゃないか、って」

姫子は黙って聞いている。

「姫子も、教え自体はまともだって言ってただろ?」

「悠一はスピリチュアルが正しいって言うの?」

「何もかもを信じているわけじゃない。生まれ変わりとか、癒しのエネルギーとか、非科学的だし——」

「じゃあ、スピリチュアルの何を信じているの? その教えだって、あの人たちは守護霊や天使が教えてくれたって言うのよ? しかも、頭の中に直接語りかけてくるんだって!」

「俺には……何をどこまで信用していいのか、わからない。今まで会ってきたカウンセラーに、本物の“力”があったとも思わないし。——けど、全てを頭ごなしに否定するのは、何か違う気がする」

姫子は立ち止まった。俺も合わせて足を止めた。

「…………悠一は、わたしよりスピリチュアルを取るの?」

「どっちを取るとか、そういうことを言ってるんじゃない——」

「……——大っ嫌い!」

吐き捨てて姫子は走っていった。一瞬見えた横顔に、涙が流れていたような気がした。

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