魔法騎士魔法戦闘科

 サリウスとアストロは会場に戻るとそれぞれ事前に話した通りに動く。

 アストロはスケルター国の王女の元へ、サリウスは窓際の所へ。


「お初お目にかかります王女様」

「どなたかしら?」


 アストロは軽くお辞儀する、スケルター国の王女、ワキリナ。その姿は美貌と抜群のスタイルを兼ね備えた王女だが目付きは鋭く同じ女性でも圧倒するほど目付きは悪かった。


「マナカリナ国のサナです」

「マナ……あら?そんな国に招待状なんて…」

「マガツリア王女の親戚です」

「マガツリア……、ああ〜あの方ね。そうねあの方には色々とお世話になっているわ。ワイン飲みます?」

「ありがとうございます。しかしワタシはあまりワインはお好きではございませんので、申し訳ございません」

「そう、それは残念ね。ところでアナタは執事を雇っているかしら?」

「はい。とても素晴らしい執事でございます」

「拝見しても?」

「構いません、すぐにお呼びいたします」


 アストロはすぐに窓際にいるサリウスを呼びに行く。


「かかりました」

「やはりな、ワキリナ王女はとことん男を道具として見る。あとは手筈通りだ」

「かしこまりました」


 そしてワキリナの所へ行くサリウスは頭を深々下げる。


「お初お目にかかります。ワキリナ王女、この度は……」

「無駄な御託はいいわ、それよりいい男ね」

「あ、ありがとうございます……」


 サリウスは顔を上げるとワキリナがすぐさま顔を触りマジマジと見つめる。

 さすがのサリウスでも戸惑い始める。


「ーー久しぶりね、ワキリナ」

「その声はマガツリア王女?」

「ええそうよ、久々の舞踏会楽しいわよ」

「楽しんで頂けてなによりですわ」

「ねぇ、それよりウチの男いりません?」


 突然、床に放り投げたのは縛られたサバルスだった。


「ウチ、この男いらへん。受け取ってもらえへんか?」

「え?嫌、オッサンじゃん」

「あら〜、残念やな……」

「マガツリア王女。悪いですが少しこの男を味見したいので」

「まぁまぁ、それは失礼。それではまた……」


 サバルスをそのまま引き摺り会場から出ていくマガツリアにその場にいた全員は呆気にとられていたが普通の空気に戻る。


「失礼。少々邪魔が入ってしまったわね。サナ王女、この男少しお借りしても?」

「はい。構いません」

「そう…感謝するわ」


 ワキリナはサリウスを連れて会場を出る、そしてワキリナ自室に連れ込まれたサリウス。


「えっと……すみません。僕はこれから……」

「察しが悪いわね、男と女が二人っきりになったらやる事は決まってるでしょ、もしかしてこの国の決まりは知らなくて?」

「すみません。無知なもので…」

「あら、可哀想になら私が手取り足取り教えて差し上げますわ」


 ワキリナはサリウスに背を向けドレスを脱ぎ始めようとした時、サリウスは内ポケットからナイフを取り出しワキリナの口を背後から抑えてナイフを首元に当てる。


「男と女が二人っきり?やる事は決まってるよ、暗殺だよ」

「ーーッ!!」

「まぁでもまだ殺しはしないよ、情報を聞き出す、大声を出したらすぐに殺す。いいな?」


 頷くことしか出来ないワキリナは頷くとサリウスは口元から手を離す。


「あ、あんた誰よ……」

「全く少しはお勉強したらどうだ?俺はサリウス、ウルフサリウスの王だよ」

「サリウス……それってあの独立した」

「察しが悪いのはお前の方だよ、まぁいい。元老会のクソババアはどこだ?」

「まさかお母様を!?」

「答えないと首が飛ぶぞ」

「ひっ!!と、隣の部屋です」

「聞いたかアストロ」


 部屋の外で待機していたアストロはドアを開け返事をする。


「はい。しかとこの耳で」

「そしたらそっちは任せる」

「畏まりました。ご主人様」


 アストロはドアを閉めて鍵を閉め完全に二人っきりにした。


「な、なぜあの女が鍵を?」

「そんなの針一本あれば誰だって出来る。覚えとくといい。だが今は二人を楽しもう」


 首元からナイフを離して下がるサリウス、ワキリナは急いで逃げようとドアに向かって走るが顔スレスレでナイフが通り過ぎる。


「わりぃ、手が滑った。次逃げようとしたら殺すよ」

「……は、はい……」


 逃げ場が無くなったワキリナは素直に従うしかなかった、サリウスはワキリナを椅子に座らせてサリウスは窓の外を確認する。


「質問に答えてくれれば俺は殺しはしない。それでいいか?」

「答えるだけでいいんですか?」

「簡単だろ、どうだ?」

「……わかりました」

「良かった、俺の手間が省けたよ。それじゃあ質問する……」


 サリウスは丁寧に一つ一つ質問を始めた、その頃アストロは隣の部屋に入っていた。

 部屋は暗く具合が悪そうに老いた女性が寝ていた。


「……元老会のお方ですよね?」

「ん……、お主は?」

「暗殺者です」

「そうか……」


 死に際を悟ったのかアストロはナイフを片手にそのまま刺そうとしたが突然暗闇から腕を掴まれた。


「ーー誰!」

「元老会の人を暗殺しに来るとは中々やるもんだね、けど来ることは分かっていたよウルフサリウスのメイドさん」

「中央支部特別機関。魔法騎士魔法戦闘科。マリウスだ」

「特別機関?それに魔法騎士魔法戦闘科?ーーーッ!!」


 アストロの腹に蹴りを入れるがドレスの下にはプレートを仕込んでいたため何とか直撃は免れたがあまりにも蹴りの勢いが強く壁に激突する。


「身体を魔法で強化する。と前まではそうしていたが今は魔力を凝縮した結石を体内に埋め込む。そうすることによって魔力と身体の誤差の動きを減らす。君たちもよく知ってるだろ」

「……ですね」

「なるほど、君たちはそう称してるのか。だが我々はこう称する」

「ーーなっ!?」


 マリウスは瞬時に間合いを詰めアストロの首を締め上げる。


「衝動だ」

「変な名前…」

「君たちほどではない、そして俺の衝動は『絞殺の衝動』。この手で絞めたくて絞めたくて堪らない衝動だ」

「かはっ……」


 さらに締め上げ足が床から浮き段々と意識が遠のくアストロだがドレスの袖から小さな刃を落として指先で挟みマリウスの腕を切りつけると反射的にマリウスは手を離す、その隙を狙いまた距離を置くアストロ。


「仕込み刃か、中々だね。君は暗殺に長けている様だ」

「けほっ、お察しの通りですよ。試してみますか?貴方の絞めあげる手とワタシの暗器」

「う〜ん、諦めましょう。まだ本領発揮は出来ない命令ですので」


 マリウスは寝ている元老会の女性を持ち上げ窓から飛び降りて逃げた、すぐに追いかけようとしたアストロだがちょうど高台にいたハニーラに合図を送った。


 約数時間前、ハニーラはサリウスから指示を得たあと高台を見つけ準備を始めていた。


「………完了。次の指示まで待機」


 ケースの中にあったそれぞれの部品を組み立て狙撃銃を構えた。

 スコープは付けづにアイアンサイトだけで覗く、そして数分後には舞踏会の会場である窓からサリウスが周りに見えないように指で指示を出す姿が見えた、ハニーラはジャケットのポケットから光が弱いライトを点滅させて合図を送り返した。


「……準備完了。と合図を待てと目標を探せ……」


 ハニーラは会場全体を見渡しアストロを見つけたあとアストロが見てる目線を追うとそこにはスケルター国のワキリナ王女を見つける。


「……第一目標発見。第二目標は……」


 会場だけでなく他の部屋をくまなく探すが見つからない、それもそのはず外敵の攻撃から身を守るため寝床は窓から直接狙われないように設置してあるからだった。

 会場以外の全ての部屋は消灯してあり探すことが困難だと判断したハニーラはワキリナに銃口と視線を戻す。

 そして一度会場を出ていたサリウス達が戻ってくるとサリウスとワキリナが接触して部屋に向かって入っていく、サリウスはワキリナを背後から押さえつけてアストロが一度入ってくるが出ていき何処かの部屋に入る、するとワキリナの隣の部屋から誰かが窓を開けて逃げていくと窓からアストロが顔を出してハニーラに指示を出す。


「第二目標。発見。しかしもう一人は不明?」


 疑問に思いながらもハニーラは逃げさる人物に銃口を合わせる。

 あまりにも遠い距離だがハニーラにとって距離なんて些細な問題に過ぎなかった。


「……ふぅ……ーーー」


 息を止め狙いを定め引き金に指をかける。


「ーー君は機械人形オートマタだね」

「なっ!?いつの間に背後に!」


 ハニーラの背後に突然現れた人物は巨大なナタを振り下ろす、ハニーラは銃を捨て高台から飛び降りる。


「ははっ、俊敏さは高いようだ」


 音もなく現れた人物はハニーラを追いかけるように高台から飛び降りた。

 アストロとハニーラの予想外の出来事の最中、サリウスの話が終わる頃だった。


「………なるほど、大体分かった。それじゃあ中央支部には新たな動きと元老会はもはや機能を失っていると」

「そうよ、質問が終わったのなら解放してくれる約束よね」

「おお悪い悪い。そうだった、じゃあ……」


 サリウスはナイフをしまうと小型の球体を取り出す。


「お前達はまだ知らない物だろうが分かりやすく言うと小型爆弾だ」

「そ、それをどうする気?」

「プレゼントだ」


 その爆弾のピンを外してサリウスはワキリナの口に詰め紐で口を閉じる。


「ピンは抜いたがまだ爆発はしない、だがお前が口を開けそれを外した瞬間にキャップが取れて数秒後には爆発する。仕組みはまぁサバルスからまともに聞いてないから分からないがピンを外したらこれを元に戻すしかないらしいが要らないよな」

「んーーー!!」


 サリウスはピンを窓を開けて捨てるとワキリナを椅子に縛り付けて部屋から出ていく、最後まで何かを訴えようとしたワキリナだが口が塞がったまま取り残された。


「ーーご主人様。緊急事態です」


 部屋を出るとちょうどアストロも出てくる。


「分かってる。急いで戻るぞ」

「はい。それと中央支部がワタシ達と同じ実験をしたらしくそれが…」

「魔法騎士魔法戦闘科だな」

「はい、ワタシ達と似たモノです」

「めんどくせぇな、アストロは会場を陽動。したのち合流、俺とハニーラは先に馬車で待ってる」

「かしこまりました。ご主人様」


 アストロは会場に戻っていく、サリウスは早足に城を出るとマガツリアとサバルスが待っていた。


「マガツリア。ひとつ聞きたい」

「何かしら?」

「人体実験の成功例は?」

「それを聞くということは会ったのかしら?」

「お前やっぱ知っていたな」

「別にあの子達だけとは誰も言ってないわよ」

「本当にお前は嫌いだ」

「別に好かれて欲しいとは思ってあらへん」


 睨むサリウスにマガツリアは不敵な笑みを浮かべる。


「ふむ、その様子だと緊急事態らしいな」

「ああ。だがその前に爆弾を使わせてもらった」

「アレを使ったのか?」

「まぁな王女様に食わせてきた」

「おおう…じゃあ口を開けた途端、ボンッ!か?」

「そうだ。アストロが陽動するから時間の問題だ、爆発後は俺が撒いた種が育つと思う。そしたら一番の危険はマガツリアだ」

「ウチの心配とは余裕やね」

「心配じゃねぇよ、これからまだ話すことはある。爆発すればここも終わるだろうから前もって逃げろと言うことだ」

「そないならウチはサリウスの馬車に乗るで」

「はぁ?ふざけんな、お前はサバルスと帰れ」

「えぇ…、つれないのぉ、心配してるのにそんな扱いなんて……」

「お前マジでイラつく、国滅ぼすぞ」

「……ほう……若造が図に乗るなよ」


 今にも喧嘩しそうな二人にサバルスは止める。


「待て待て、今は相手が違うだろ。マガツリアは俺が引き受ける」

「えぇーーー」

「じゃ、任せた」

「んなぁ!逃げないでよ!」


 サリウスは早々と馬車に向かう。


「マガツリア。今はやめろ」

「分かってるわよ、はぁ……全く楽しませてくれるわね、うふふ……」

「サリウスがお前を嫌う理由がよ〜く分かった……」

「もう少しだけ待ちましょう」

「何故だ?」

「手助けは必要だと思うからよ」

「どうせまた予感だと言うんだろ」

「ええそうよ」

「はいはい、待ちますよ。ちょっくら大きめの馬車を用意してくるわ」


 騒がしくなり始める城から離れるサバルス達だった、そしてサリウスは馬車の所にたどり着くとそこにはマリウスがキャリッジに元老会の老いた女性を乗せるところを目撃する。


「おや?君が噂のサリウス君だね」

「俺はお前を知らないがお前が知ってると言う事は魔法騎士魔法戦闘科の奴か?」

「当たり、この馬車は君の?」

「勝手に使うな」

「悪いね、落ちていたから貰うね」

「誰もあげるとは言ってねぇよ。降りろ、その女は元老会のクソババアだろ」

「ん〜、嫌だ」

「そうか分かった。じゃあ殺す」

「まさか魔法騎士相手に勝てるとでも?」

「ああ勝てるさ、王舐めんなよ」

「ぶはっ!何それ、わらえーーへっ?」


 吹き出して笑うマリウスだがまばたきをした瞬間、サリウスの膝がそこにあった。

 そのまま膝蹴りを顔面に喰らったマリウスは倒れる。


「おいおい。魔法騎士魔法戦闘科ってのはそんなに弱いものなのか?」

「……なっ!君はもしかして同じ人体実験を?」

「同じ?一緒にするなよ、俺のはお前達より酷い紛い物だぜ」


 スーツを整えるサリウスにゆっくりと立ち上がり鼻血を拭き身構えたマリウスだった。

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薔薇には棘があるがメイドにはそれ以上の棘が存在する 水無月 深夜 @Minazuki1379

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