舞踏会

 昨日はサリウスにとって予想外の出来事が起きたが事が済めばいつも通り何も無い日が続いていた。


「ヘリル。調子は?」

「問題はありません、お気遣い感謝します」

「それなら良かった。ワーナーはどうだった?元気にしていたか?」

「はい。最後まで元気でした」


 サリウスにはヘリルがワーナーにどんな事をしたのか分かっていた。

 それはサリウスがサバルスから貰った文書を読んでいたからだ。


「マヘストロ国壊滅、民は全て蜂の巣に、王は何者かの拷問によって死亡。死体は無惨な姿だった。と派手にやったな」

「はい。証拠全て抹消しましたので犯人特定はほぼ不可能です」

「そうだな、まぁどうせ元老会のあのクソ野郎はどうせ俺だと言うだろう。でも実際マヘストロ国は他の国からの略奪は絶えず俺達以外の国からも怨まれていたからまぁ今回はいい仕事だと思うぞ」

「そうですね。ご主人様。ウールの方は…」

「ウールはサラニアが抹殺した」

「ということは、棘は……」

「讓渡する。しかしその前になぜウールが裏切ったのか調べる必要もある」

「それでしたら私が……」

「いやお前は当分外出を禁ずる、他の者に調べさせる」

「かしこまりました。ご主人様」

「アストロ、ハニーラを呼べ。ウールの調査と棘の件は俺が請け負う。あとはバル主要国一つ、スケルター国へ行く」

「かしこまりました。それでは準備の方を進めさせていただきます」


 次の日の明朝。サリウスはスーツを着込み豪華なキャリッジの前でヘリルと待つ、そして深紅のドレスを着た一人の女性とその後ろからメイド服に上着を着た女性が来る。


「アストロ。ドレスの着心地は?」

「問題はありません、しかしワタシでよろしいのですか?」

「ああ、お前なら暗器は十分につかえるだろ」

「はい。サバルス様からの頂き物はとても素晴らしい物です」

「そうか、それは良かった」


 ドレスを着た女性はメイドの一人であるアストロだった、アストロはドレスのあらゆる場所に暗器を仕込んでいた。


「ハニーラは?」

「問題ありません」

「ふむ、まぁお前は武器は必要ないだろ」

「はい」


 アストロの後ろにいるメイド服を着た女性はハニーラだがいつも無表情で感情を読み取れない。


「出発する。ヘリル。問題は起こしてもいいが対処はそちらでやれ」

「畏まりました。ご主人様」


 ヘリルはサリウス達が乗ったキャリッジを見送ると仕事に戻った。

 サリウスは馬を操りキャリッジにアストロとハニーラが乗る。


「ご主人様。変わりましょうか?」

「大丈夫だ。スケルター国は女性主権国家だ。男性に権力なんてない、入国するためには俺が馬を操った方が怪しまれないだろう」

「ですがご主人様の顔はバレてしまっているのでは?」

「いやスケルター国は目先の事しか考えない、争いなんてもっての他だ。バルさえ得ればいい頭の悪い国だが同時に利口だ、極端な話ああいう国はしぶとく残るがそのしぶとさ利用させてもらう」

「どのようにして利用するのですか?」

「マガツリアから貰った情報でスケルター国の王の母親、すなわち元老会の一人であるクソババアが舞踏会に参加するらしい」

「それを暗殺ですか?」

「そうしたいのは山々だがまだ早い、様子見だ。事前に知らせた通りにアストロがとある国の王女として舞踏会に参加し俺がその執事。ハニーラは緊急事態に備えた人員だ」

「かしこまりました。ご主人様」

「ハニーラは大丈夫か?」

「いつでも大丈夫です」

「十分だ」


 そして休むことなくそのままキャリッジは夕方にスケルター国までたどり着く。

 壁に囲まれたスケルター国は門を介さない限り出入りは不可能なほど強固で高い壁だった。

 門には男性の兵士達が検問を行っていた。


「俺はマナカリナ国のサナ女王の執事です」

「要件は?」

「舞踏会の参加です」

「招待状は?」

「コチラです」


 サリウスはマガツリアから貰った招待状を渡す。


「通っていいぞ」

「ありがとうございます」


 問題なくスケルター国に入れたサリウス達。中に入ると雰囲気は一変する。

 煌びやかな街並みに豪華な衣装を身にまとい歩く女性達に街の中央に位置する巨大な城とサリウスの国とは全くの真逆の土地と派手さがあった。


「……初めて見ましたが凄いですね」


 アストロが顔を覗かせ驚く。


「徹底して自国のみ発展させていく、バルは中央支部だけでなく元老会からも得てるんだろ。腐った王女だよ」

「え?それって二重にバルを貰ってると言うことですか?」

「ああそうだ。腐った王女と元老会のクソババアがやってるクソみたいな事だよ」

「でも他の国だけじゃなく元老会から追放されるのではないですか?」

「その理由を突き止める為の潜入だ」

「さすがです。ご主人様。あ、そういえば先程のマナカリナ国ってどちらのお国ですか?」

「さぁな、とりあえずデタラメを言った」

「えっ!?な、なぜバレなかったのですか?」

「門番は男性だっただろ」

「はい。そうですね」

「で、ここの主権は女性だ。しかも女性を優先とした国だ、男性は単なる道具で奴隷の様に扱われる」

「もしかして仕事を怠慢というこですか?」

「正解。ここの男性は仕事をしているように見せかけだ。招待状もマガツリアから貰った招待状を写しただけ、潜入なんて楽なもんだよ」

「なんかご主人様以外の国が責めたら一気に陥落しそうですね」

「そうでもない、出入り出来る門はあそこだけ。他の国が攻めようとするならばあそこを通らなければならない。そしたら男性は何もせずとも女性だけが徹底して防衛すれば簡単に防げる。そして元老会のクソババアがいるから下手したら中央支部の兵は加勢するだろうな。そしたら時間稼ぎされたらたまったもんじゃない」

「なるほど……ある意味鉄壁の国とも言えますね」

「まぁな、さて着いたぞ」

「あ、はい」


 城の前でキャリッジが止まる、周囲は大勢の舞踏会の参加であろう女性達が城の中に入っていく、サリウスはキャリッジからアストロをエスコートする。


「すみません。ご主人様…」

「気にするな、これはあくまで仕事だ。先に中に入ってろ、ハニーラに指示を出したあと俺も向かう」

「畏まりました。ご主人様」


 周りに聞こえないように話すとアストロは城の中に入っていく、そしてサリウスはキャリッジを城から遠い場所に止める。


「ハニーラ。お前は舞踏会を全て見渡せる高台を探せ、合図があるまで待機だ」

「畏まりました。ご主人様」


 ハニーラは座席の下に隠してあったケースを出して持ちそのまま降りると軽やかに街の屋根に飛び乗るとそのまま飛び移って見えなくなる。


「さてと、仕事を始めますか…」


 サリウスは手袋を着けて舞踏会の会場に向かった。


 舞踏会の会場では大勢の女性達がドレスを着込んで会話を楽しんでいた。

 サリウスや他の男性達は端の方で静かに待つ。


「失礼。君は今はどんな生活だ?」


 サリウスが隣にいる男性に話しかけると男性は少し怯え萎縮していた。


「見たところによると君の首元にある跡と手首にある跡はまぁそうだな奴隷みたいな扱いを受けてるね」

「ええ……はい……。あの君は?」

「他の国からの招待だ、一応この国の事情は知ってる」

「そ、そうなんですね…………」


 男性はサリウスの事を羨ましそうに見た思えばすぐに視線を下に向ける。


「……助けてやろうか?」

「え?」

「簡単だよ、反旗を翻せばいい」

「で、でも……」

「無理か?」

「むりです、できません」

「まぁ無理な話だよな。けどいい事教えてやるよ。国はいつだって滅ぼせる、その気になればな」


 サリウスは立ち去る、そして窓際に立ち寄り外を見るとちょうど時計台から小さく光る物が見えた。


「準備は完了か、あとは……」

「あら、サリウスじゃないの」

「はぁ……なんだよマガツリア」


 背後からそっとサリウスの肩に触れる女性、マガツリアだった。


「今回はアストロちゃんとハニーラちゃんなのね」

「まぁな、ちょうど良かった話がある」

「そしたら廊下でしましょう、ここだと人目があるでしょ」

「分かった」


 会場を出て廊下で話すサリウスとマガツリア。


「棘の件だ」

「ウールちゃんの件ね、けど讓渡は難しいわよ」

「分かってる。破壊の棘だろ」

「破壊の棘は目標そのものを破壊する、例えば脳を叩けば頭蓋骨を割らずに脳ミソそのものを揺らし破壊する。相当なシロモノよ」

「殺戮の棘ほどではないだろ」

「まぁね、サラニアちゃんは?」

「特に変わらず、アイツは新緑の瞳を使ったらしい」

「あら〜、そしたらウールは勝てなかったわね」

「豪強の棘。身体強化に武器強化。ほぼ無敵の肉体に武器は絶対に壊れない、ある意味最強だよ」

「分かったわ、人選はこちらでするわ。それで今回はどういう作戦なの?」

「お前に教えるわけにはいかねぇよ」

「あら残念、そしたら彼は?」

「彼?」

「ーーサリウス」


 マガツリアは指を指すと同時にサリウスを呼ぶ声にサリウスはすぐに誰か分かった。


「あーなんでいるんだよ。サバルス」


 それはサリウスの兄、サバルスだった。


「マガツリアのお供だよ」

「馬鹿言わないでお前さんが行きたいと言っていたからよ」

「悪い悪い、まぁいい女はそれなりにいるがサリウスが狙っている女はババアかな?」

「言い方を考えろクソ兄貴。そうだよ元老会のクソババアだよ」

「なるほどねぇ、そしたら俺も手伝うぜ」

「別に構わないが理由は?」

「ウザイから」

「元老会相当怨んでるよな、分かった一致だ。そしたらサバルスは……」


 勝手に話が進むサリウスとサバルスにマガツリアは止めた。


「兄弟揃ってお馬鹿ねぇ」

「「はぁ?」」

「元老会のオバサンは今は部屋で休んでるよ」

「それを知ってるなら早く言え」

「勝手に話を進めるからよ、ところでアストロちゃんが来たわよ」


 マガツリアの後ろから小走りで来るアストロ。


「ご主人様……とサバルス様にマガツリア様?」

「ん、久しぶりだなアストロ」

「久しいわねアストロちゃん」

「あ、はい。ご無沙汰しております」


 丁寧に頭を下げるアストロにサリウスは急かすように報告するように言う。


「どうだったアストロ」

「はい。スケルター国の王女であるワキリナ王女は他の女性方と会話をしております。しかし元老会の方は……」

「部屋に居るわ、アストロちゃん。調べ事の報告はその場だけの状況ではなくその先を考えて報告しないと」

「申し訳ございません!」

「マガツリア。今は説教はいい。ご苦労さまアストロ」

「ありがとうございます。ご主人様」

「ん〜まぁ、こっちも予め種は撒いたからそろそろ動きますか」

「ウチとこのお兄さんの出番は?」

「出番って二人は何しに?」

「元から手伝う予定で来ましたのよ、だから招待状を写させたのですよ」

「あーはいはい、分かった。まぁ一応手を借りてる国だからな」

「分かってるじゃねぇか我が弟」

「嫌な所で兄貴面すんなよ」

「全く正直じゃない奴だな」

「勝手にしろ」


 サリウスは新たに増えたサバルスとマガツリアに指示を出したのちアストロにも伝え行動を開始した。

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