後始末

 サラニアは一人でサリウスやメイド達が食事に使った食器を一人で洗っていた。


「お皿は全てある……スプーン、フォーク、ナイフは…あれ?足りないっす……おっかしいな〜、僕の数え間違いはないはず、どこか落とした?いやそんなハズは……」


 完璧に洗い終わった食器を並べ数えるサラニアだが足りないことに気づく。厨房の下や棚を全て確認するがどこにもない。


「ん〜〜〜〜、あとでヘリルさんに発注してもらうか、でも今は居ないんだよな」

「ーーおっ!サラニアここに居た!」

「アリエルさんっすか、何の用?」


 アリエルが厨房に駆け込んでくる。


「いや〜私の棘が見当たらないんだよね知らない?」

「知らないっすよ、そこら辺で物干し竿に使われてるんじゃないっすか?」

「え〜〜、というかヘリルは?」

「お出かけ中、てかさぁアリエルさんご主人様に怒られなかったの?」

「え?なんで?」

「だってさ、僕の皮を被ったウールにまんまと騙されて地下室で眠らされたとかもうバカウケレベルだけど一応ヘリルさんだけのせいじゃないからな」

「あ〜〜、つい油断しちゃった」

「油断しちゃったって……ご主人様、本当にアリエルさんに甘いんだから…」

「ごめんごめん、じゃあもしかしてヘリルは今は後始末しに行ったの?」

「そうだよ」

「あら〜〜、じゃあ私はサラニアのお手伝いしよ〜」

「いや邪魔すんなし、アリエルさんの洗い方はご主人様より酷すぎる、洗い残しどころか泡も残って拭き残しもある。本当に酷い、いやマジで酷い、マジ最悪」

「あわあわ……ごめんね」

「こっちも言いすぎた、アリエルさんはヘリルさんには謝った方がいいっすよ。今回はヘリルさんが全責任を持ったわけですから」

「そうだね、うん。分かった」


 アリエルは軽く手を振り去って行く、そして安堵の息を吐くサラニアは食器を丁寧に棚に戻した。


「アリエルさんの棘もないとなると僕の方も持っていったな。たしかマヘストロ国はお話だけで済む場所ではないと聞いたからなぁ……まぁいいか」


 食器全て棚に戻し厨房の隅っこで椅子に座るとサリウスから褒美としてもらった高い葉巻を咥えて本を読み始めた。

 その頃、ヘリルはマヘストロ国に居た。


「ーーそれでは暗殺者は送り込んでないと申しますか?」

「ああ知らんな、オレらはどっかかしら命令を受けない限り動くことはない。よく周りからは狂戦士と言われるがそれは命令だからだ。それで独立国のお使いさんよお話はそれだけか?」


 マヘストロ国はサリウスの国と似たように領地はないがその国自体は闘技場が国だった。常に戦う人達がこの闘技場に来ては血を争い、それを観戦する者や参加する者とマヘストロ国の国民は大体が国から追い出された者、迫害された者とほとんどがならず者だが全員の統率力は巨大だった、そしてバルを稼いでは他の国からの物資を得ると戦いにしか脳がない国だがある意味それだけで国として成り立っていることから馬鹿には出来ない国でもあった。

 そんな闘技場の上にある観戦席でマヘストロ国の王、ワーナーとヘリルは話していた。


「いえそれだけ聞ければ十分です、それでは失礼致します」


 帰ろうとしたヘリルだがワーナーは止める。


「おっと、そう簡単に返すわけにはいかねぇ、知っていると思うがオレらの国に女はいねぇ。よく見ればいい女だな、どうだオレの女にならねぇか?あんな独立国はすぐに潰れる、どうせ話が来れば一斉に潰しに行くと思うぜ。その時に生かされる保証はない、その前にオレの国に来ないか?」

?」


 ワーナーの言葉に引っかかったヘリル、その言葉はまさに暗殺者を送り込んだ事を認めたことだった。


「おっとついつい滑っちまった。だが証拠がない以上犯人と決めつけるのは無理だな、それにお前は女だ、ここには戦いに慣れた男しかいない。まぁお前がここに残るのなら男以外にも慣れるかもな」


 大笑いするワーナーに小さく舌打ちするヘリル。


「ええ、分かりました。そうですね私を屈服させたら貴方に従いましょう。この身も心も全て」

「おっ!やる気になったのか、まぁそう簡単にやられる男共じゃねぇよ」

「後悔しても知りませんよ」

「その言葉そっくり返すぜ」


 ヘリルは観戦席から高く飛び闘技場の中央に降り立つ。ちょうど闘技場で戦っていた人達は驚き手を止めるとワーナーが大声で宣言した。


「今中央で立っているのはあの独立国のメイドだ、その女に勝つことが出来れば自由にしていいそうだ。別に殺しても構わねぇ、存分にやってやれ!」


 ワーナーの宣言に闘技場の男達は雄叫びを上げ一斉にヘリルに向かっていく。


「はぁ……全く狂戦士共ですね。脳がないです」


 ヘリルはスカートの裾を軽く持ち上げると普通ではありえない程のデカさのガトリング砲がスカートの中から出てくる。


「……アリエルの棘お借りします」

「ーーなっ!?なんだよアレ!」

「嘘だろ」


 そのガトリング砲を見た瞬間に立ち止まる男達、そしてヘリルはガトリング砲を持ち上げる。


「それでは皆々様、死んでください」


 砲塔が回転を始め逃げ出す男達だったがすでに遅く背中がガラ空き状態の男達を蜂の巣にしていく。

 時間にしてたった一分で闘技場にいた男達は地面に伏して立っているものは一人も居なかった。


「……持ち主以外ですと棘はあまり機能しないので弾切れになりますね。それでは王様、次は貴方ですよ」


 ガトリング砲を放り投げて観戦席に一人残ったワーナーを見ると死の危機を感じたのか逃げ出すワーナー。しかしヘリルは観戦席に飛び戻ると逃げるワーナーの肩と足にナイフを投げ刺すとその場に倒れる。


「うぐ……、き、貴様何者だ……」

「私はサリウス様に仕えるメイドですが、何か?」

「違う!メイドごときがあ、あんなに派手にやるものか!!」

「何を言いたいのか分かりませんね、穏便だと思ったらおおまち…いえ私はそうですね、まだ穏便ですよ」

「馬鹿な事を言うな!あんなデカい銃器なぞ、ぶっぱなす奴がどこにいる!!」

「ええここに居ますよ、正しくは私の物ではありませんが、ところで話はもうついたので少しばかり私の機嫌直し手伝っていただけませんか?」

「きげんなおしだと?ふざけるな!」


 這いつくばってでも逃げようとするワーナーにヘリルはワーナーの進行方向に立ち座る。


「な、なんだよ。邪魔だよどけ!」

「まだ分からないんですか?貴方は私達の国に手を出したことを」

「あ……あれは嘘だよウソ、そんなマジになるなよ」

「ウソですか……そうですか」

「だからな、やめーーへぶっ!!」


 髪の毛を鷲掴みしてそのまま地面にワーナーの顔面を叩きつける。


「ウソであれ私に宣戦布告しておいて国の王はしっぽを巻いて逃げるんですか?愚かですね、それでも国の王ですか?」

「ち、違う……オレはーーはぎゃ!!」


 またもや地面に顔面を叩きつける。


「ここで貴方が死んでも証拠がない以上私がやったことにはなりませんので」

「あ……あくま……」

「私の機嫌直し手伝っていただけますよね?」


 笑顔を見せるヘリルだがワーナーにとってその笑顔は悪魔のような笑みに見えたがそれ以上に底知れぬ瞳と笑みに恐怖で涙を流したがすでに遅かった。


 サリウスが敷地にある造園のテラス席でお茶を飲んでいた。


「いい天気だ……」


 天気は晴天、敷地内ではメイド達が仕事をする。

 すると一人のメイドがサリウスの後方から歩いてくる。


「ーーヘリル。まずは顔を洗ってこい」

「はい。申し訳ございません。ご主人様」


 サリウスは振り返ることなくヘリルに顔を洗うように伝える、ヘリルの顔は血だらけでメイド服も血で染まっていた。


「洗いに行く前に後始末はどうだった?」

「口ほどにもありませんでした、少々気分が優れなかったので少しばかり遊ばせていただきました」

「そうか、ご苦労さま」

「はい。用事が済みましたら改めご報告させていただきます」

「いや、大丈夫だ。ただお前はまた気付かぬうちに棘を出してる」


 サリウスの言葉にヘリルは気づく自分の顔が笑っていることに。


「殺戮の棘。別に俺は気にしてないが他のメイド達が怖がる、気をつけろ」

「申し訳ございません。ご主人様、久々に気持ちが高ぶってしまいました」

「そう何度も謝るな、常に平常心だ。とりあえず洗いに行け」

「かしこまりました。ご主人様」


 ヘリルは口を抑えて笑っている所を他のメイドには見られないようにその場を離れて行った。


「まだ早かったか、しかし棘をひとつ失ったのは大きい。少し考え直そう……」


 サリウスはカップを置き近くで咲いていた真っ赤な薔薇を摘もうとした時、茎にあった棘で指を切ったが気にせずそのまま折り曲げた。

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