和解負成立

 二週間後、サリウスは現在中央支部から各地の国に送られる文書を読んでいた。


「ヒリスト国にて茶会中に毒殺事件、犯人はウルフサリウスの国だと思われる……か、調べもなしで犯人扱いしやがったな中央支部の野郎、まぁでも確かに殺ったけどな。なぁキリア、アストロ」


 文書に火をつけ燃やすサリウスの横にはキリアとガムを噛みながら目付きが悪いメイド、アストロが立っていた。


「痕跡はのこしておりませんので犯人特定は難しいかと思われます」

「十分だ。しかしまぁ、毒とはまた面白い武器だな。どんな手法使った?」

「あたしが茶会に潜入、隙を見てキリアが毒を撒いただけ。ご主人様が心配する程でもなかったよ」


 風船を膨らませ答えるアストロ。


「有益な情報は?」

「特になし、ただほんの少し気に食わなかったのはご主人様をバカにしたこと。キリアはそれに腹を立て一人を撲殺、あたしはなーんもしてない」

「申し訳ございません。ご主人様、私の勝手な判断で……」

「別に気にするな、中央支部には容赦なしでいい」

「あ〜〜了解で〜す」

「とりあえず仕事ご苦労さま、褒美は何がいい?」

「あたしは365日お休み〜」「私は数日の休みを頂ければ」

「分かった。アストロは一日休み、キリアは数日休みだ」

「えーーー!それ酷くない?」

「調子に乗るからですよアストロ」

「う〜、かしこまりました。ご主人様」


 キリアとアストロは部屋を出て行く、サリウスは一息ついたあと部屋を出て廊下を歩く。

 すると向かい側からヘリルが歩いてくる、ヘリルはサリウスの歩みを邪魔しないように端に避けるとサリウスはヘリルの前で止まる。


「お疲れ様です。ご主人様」

「キリアとアストロは仕事を完璧にこなした、また数日後にはお客様が来るだろう」

「それではおもてなしの準備を」

「そうだな、だが今回は穏便に話を進めようかなと思っている」

「かしこまりました。それでは私がお傍に付かせていただきます」

「準備を任せる」

「畏まりました。ご主人様」


 数日後、サリウスの言う通りヒリスト国の兵士が豪邸の前に綺麗に整列して待機していた。


「彼らなりの礼儀というものか、ヒリスト国は礼儀と正義を重んじる国だからまずは向こうも話し合いと言うことか」


 サリウスはいつもとは違いきっちりとスーツに着替え敷地内を進み表に出るとすでにヒリスト国の王であるリニアス王が兵士の前に立っていた。


「一応聞くが俺の国に何用だ?」

「言わなくても分かってるだろ、我らの重要な茶会を邪魔してよく言えたもんだ」

「いや知らない。俺ではない」

「しらを切るな」

「まぁそう怒るな、少し穏便に話をしないか?」

「話だと?ふざけるなよ、そんな手には……」


 断るリニアス王だがヘリルが有無を言わさず丸机と椅子をサリウスとリニアス王の間に素早く設置する。


「ありがとうヘリル」

「……貴様……ふざけてるのか」


 サリウスは身の危険をかえりみず前に進み椅子に座るとヘリルがお茶を用意して下がる。


「別にふざけてはいない、身の潔白を証明だ。俺は何もしてない」

「なん……だと……」


 お茶を飲むサリウス、挑発に見える行為だがヒリスト国は礼儀と正義をモットーとしているため確かなる証拠がない限り無益な戦いはしないと理解しているサリウス、そしてリニアス王は怒りを抑え前に出てサリウスの前に座りヘリルからお茶を差し出されヘリルは下がる。


「我は飲まないぞ」

「別に何も仕込んではない、このお茶は他の国より断然に美味しい。俺の自慢の国民が育てた茶葉だ」

「………」


 怪しむリニアス王だが恐る恐るカップを持ち口をつけ飲む。


「………美味」

「だろ、どうだこの茶葉買うか?」

「ふむ……、なるほど、身の潔白の次は売買交渉か、何が目的だ?」

「目的か、強いて言うなら中央支部の情報がほしい」

「中央支部。やはり独立国になったんだな。だが無理な話だ、その情報は秘匿事項である」

「そりゃなぁ……、どうすれば売ってくれる?」

「…………なぜそこまでして中央支部に拘る?」

「単純だ、ウザいから潰したい」

「なっ!そんな理由だけで独立したのか!!」

「そんな理由とか言うなよ、それでどうする?」

「売れない。無理だ、いつかは貴様の国は中央支部だけでなく他の国から永遠と狙われ続け勝ち目が全くない。そんな国に中央支部の情報は売れない」

「分かった。それじゃあ……」

「ーーっ!!」


 机の上に小切手とナイフを出してリニアス王の前に置く。


「どちらか選べ、ここで戦うかここで情報を渡すか」

「選ぶだと、そんなことは……」

「リニアス。俺は今や独立国だ、ここで今すぐナイフで貴様の首を切る事は可能、しかし俺はあくまで穏便に話を済まそうとしている。どういうことか分かるよな」

「貴様、それが目的か!!」

「別に目的とかはどうでもいい。今俺がやっているのはひとつの手段にしか過ぎない」

「分からない、貴様の目的が分からない」

「分からなくて結構、さぁ選べ」

「……………」


 いつの間にか流れ全て呑まれたリニアス王。毒殺事件がサリウスが起こした確たる証拠はない、証拠も無しに戦うことは可能だがそれはヒリスト国の正義に反する行為、ここで戦うことを選べば中央支部の情報は渡さず信頼も大きくなるが仮に毒殺事件がサリウスが起こした事ではなかった場合はリニアス王としての立場やヒリスト国のモットーに反する行為となり国民の信頼が落ちる。かと言って小切手を受け取り多額のバルを受け取ればヒリスト国は更なる発展と名声が高まるが実質的に独立国と組むこととなり下手したら狙われる場合もあり中央支部からの支援バルも消え、情報も情報も渡すこととなる。

 完全に嵌められたリニアス王だった。


「別に無理して選ぶ必要はない、俺が選ぶだけだ。さぁどうする」

「くっ……、ひとつだけ聞きたい」

「いくつでもどうぞ、時間はまだある」

「バルはどのくらいある?」

「捨てるバルなんていくらでもある。そこの小切手に自由に書くといい。だが書いた時点でお前自身は国民に黙って独立国と手を組むことを意味する。わかるよな」


 国とは国民の信頼があっての国、たとえ上辺であったとしても国民の信頼が消えたら国は成り立たない。

 リニアス王は代々受け継いできた正義はヒリスト国の国民は百も承知、それを裏切ることは出来ない。


「……分かった、選ぼう」


 リニアス王はナイフを手に取った、そして小切手に突き刺し立ち上がる


「この度は証拠もなしに国に侵攻したことをお詫び申し上げる。我は元より礼儀を重んじ、正義を貫く国。再度調査を行い結果を別途そちらに文書を送らせていただく、誠に勝手ながら犯人扱いしたことを許していただきたい」


 深々と頭を下げるリニアス王、背後に整列していた兵士達が急に自国の王が頭を下げた事に驚く。サリウスはお茶を飲み干し立ち上がる。


「それがお前の答えか」

「調査の結果、そちらの国の者だと判明した場合は次回は有無を言わさず侵攻させていただく」

「構わない、だが簡単に侵攻出来ると思うなよ」


 サリウスは豪邸に戻って行きリニアス王も兵士達の方に戻るとそのまま何事もなく撤退して行った。

 それを見届けたサリウスは思いっきり椅子に腰を落とす。


「あーーーー、疲れたーーーー」

「お疲れ様です。ご主人様」

「あっぶねーー。なんとか回避できた」

「ご主人様。穏便と仰っていましたがかなり危ない橋を渡ったかと」

「まぁそりゃあな、戦うことを選んでいたらヒリスト国を滅ぼしかねないからな」

「滅ぼしても問題ないのでは?」

「いやヒリスト国とは中立にしたかった。だからギリギリ選べないような選択肢を与えた、それにバルという国のひとつの武器を見せたから下手に動けないだろう」

「と、言いますと」

「ヒリスト国は中央支部からの支援バルがトップだ、バルはどこの国も欲しくなる。おそらくだがヒリスト国は俺の国が裏取引に繋がっていることを察しただろう、裏取引ならバルを流れは中央支部より多いからな。そもそも裏取引は一部しか知らない、噂程度のものだがそれを知ったヒリスト国はどっちを選ぶか見ものだ」

「ヒリスト国の正義を試すということでしょうか」

「でも別に試すことの程でもない、ヒリスト国は選ぶさ。穢れたほうに」


 二枚の硬貨をポケットから出す。ひとつは表に置き、もうひとつは裏で置く。


「ひとつは表で暴れて、もうひとつは裏で暴れる。それが俺達兄弟の仕事だ」

「楽しそうですね。ご主人様」

「ああ楽しい、ここまでの下準備にどれほど掛かったことか、少しづつ中央支部を壊していく、それが俺達兄弟の成すべきことだ」


 表の硬貨を手に取るともう一枚の硬貨はヘリルに投げ渡す。


「サバルスに渡しとけ、武器のお礼だと」

「かしこまりました。ご主人様」


 ヘリルは部屋を出て行くとサリウスはもう一枚の硬貨をへし折る。

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