ファーストフード店にて
「君はこういうのが好きなのかい」
ファーストフード店でハンバーガーを食べているイバラギにそう尋ねてきたのは、ハダたちが主様と呼ぶ人物だった。フードを深くかぶった主様の表情は見えないが、声音からイバラギが食べているものが珍しくて仕方がない様子がうかがえる。
「うまいぞ。お前も食え」
イバラギは口に頬張ったハンバーガーを飲み込むと、主様に進めたのだが、主様は目の前に出されたハンバーガーとポテトを見つめるだけで一向に手を付けようとしない。
「人間の食べるものはお気に召さないのか?」
「そういうわけじゃないよ。食べないと肉体が滅びる。そうなれば、また新たな肉体を探さないといけなたくなるからちゃんと食べているさ」
「ふーん。そうは見えないぞ。少し見ないうちに痩せたな」
イバラギは主様のやせ細った腕を見る。
「確かにこの身体になってから食がほそくなったよ。どうやら、この肉体はあまり食を受け付けないらしい。あるいは……」
「あの時のダメージのせいか?」
主様は顔をあげ、イバラギを睨みつけた。
「図星か」
「ああ、あの時のダメージは今も引きずっているのは事実だ。本来なら、あの男を八つ裂きにしたいところだけどね」
主様はそういいながら、自分のほとんど骨だけになった腕を見つめる。主様の脳裏には自分に多大なダメージを与えた陰陽師の顔がチラつく。いますぐにも殺したいほどに憎い人間。
「でも、まあ、いまはしない。いまの陰陽師を八つ裂きにしてもおもしろくないからね。それよりも、イバラギ……」
「ああ。ちゃんと手に入れるつもりだ。この前は邪魔が入ったから引き上げたけど、今度はちゃんとやる。どうせなら、やつらの目の前で奪うのもいいかもしれないな。とくにちび助。いや、有川朝矢の前で奪ったらどんな顔になるかな」
イバラギはいかにも楽しそうに笑う。
「それはいい案だ。刺激したほうが溶けやすい」
「それよりも早く食え」
「うん。食べるよ」
そういいながら、主様がハンバーガーを食らった。その直後、店員の一人が突然倒れた。
「どうしたの?」
店員のそばにいたお客さんが心配そうに声をかける。
「きゃあ」
お客が悲鳴を上げる。
その声で周囲が倒れた店員のほうへと集まると、店員は目を大きく見開き、口から大量の血を流している。身体中が青白くなっており、すでに息絶えていることがだれの目にも明らかだった。
「うまかったか?」
周囲の騒動にも目もくれずに、イバラギが主様に尋ねる。
「ああ。けっこういい味だったよ。なんだ。黒死蝶の作ったバーガーだったのか」
主様は人間の群がっているほうへと視線を向ける。
そこには、倒れている店員に群がる黒い蝶の姿がみえた。
「かわいそうに」
「だめだよ。人間の心配しては……。あれはあの人間の運命さ。さてと私は戻るとしよう。結果を楽しみにしている」
「ああ」
いつの間にか、二人の姿はどこにもなかった。
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