4・カムフラージュ

あれから、どうなつたのかは弦音は知らない。


ただしばらく時間がたったときにこれまた突然現れたナツキによってグランドに戻ってくるように言われたのだ。


しかも、眠っていたままの状態の樹里を置き去りにして戻ってこいというのはなんとひどい話だと思った。


樹里を見ながら迷っていると、ナツキが強引に弦音を引っ張り上げたのだ。その力は強い。どう考えても小学生のそれとは思えなかった。



ナツキに引きずられるようにグランドに戻された弦音は、ぐったりと倒れたままの生徒たちの姿とステージら上に上がっている朝矢たちの姿が見えた。


「おい、やはくしやがれ。お前はドラムだ。ぼけ」


朝矢は弦音を見るなり、そう叫んだ。


「はっはい」


弦音はよくわからないままでステージに上がりドラムの前に座る。


『えーえー、突然ですけどおおお💛」


 それを合図にしたのか突然、全校放送で青子の声が響いたのだ。


 どういうことなのかと問いかけようと周囲を見回すが、成都がニッと含んだような笑みを浮かべただけで、朝矢や桜花は楽器の調整をしている様子だった。


「君も確認しろ」


「はい?」



 弦音が振り返ると、そこには尚孝の姿があった。そのとなりには微笑む桃志郎の姿。


「時間がないんだよ。一気にするよ」


 なんの話なのか見えてこない。


「修正だよ」


「修正?」


それでも、弦音にはさっばりわからない。


それに対して、尚孝はため息を漏らした。


「記憶の改ざんさ。渋谷の時と同じだ」


尚孝がそう付け加える。


「本当ならば、彼女だけで十分なんだけど、なにせ彼女ね霊力が残り少ないからねえ。君たちの霊力を彼女に注ぐことにしたよ」


言っている意味がわからない。


「要するに楽器の音を通して彼女に霊力を集中させるわけ。それによって、彼女の能力が向上するはずさ。とにかく、はじめようか」


『さて、みなさーん。いきますよーー。『松澤愛桜』の特別ライブのスタートでーす』


青子の合図とともに朝矢がギターを奏で始めた。


「あい。てめえも引け」


「え? え?」


弦音が戸惑っている。


「君が変わる?」


その後ろで桃志郎が尚孝に笑いかける。


「俺じゃ意味ない」


「確かにそうだね。霊力渡せないし」


「そういうことだ」


そういいながら、尚孝は弦音の手をつかむと、その腕を思いっきり振る。

すると、ドラムが鳴り響く。



「とりあえず、それをがむしゃらに叩け。あとはどうにかなる」


「えええええ」


 よくわからない。



 とにかくやるしかない。



弦音はひたすらたたきつけた。


すると、なぜか弦音の腕が勝手に動き始めたのだ。


まるでなにかに操られているような感覚がある。



なぜそうなったか弦音はまったく気づいていなかったのだが、弦音の背中には一枚の札が張られており、もうひとつの札を尚孝が握り締めていた。


『写し身の札』だ。


それを張られた者しはそれを持つ者の意志のままに動かされるという代物だった。

その札に関しては、霊力の持たない尚孝にも使用できる代物だ。


「面倒なことさせる」


尚孝が愚痴る。


「しょうがないよ。弦音くんの腕じゃ、あの曲のリズムについていけないからねえ」



そして、愛美が歌い始めた。


ちようどサビの部分になったころには、さっきまで気絶していたはずの人たちが次々と目を覚ましていく。


いったい自分たちはなにをしていたのだろうかと左右を確認していたのだが、すぐさまに彼女の唄のほうへと注目し、熱狂が響渡った。



そして、山有高校の文化祭は問題なく無事に終了した。



『松澤愛桜のライブ』もあったこともあり、多いに盛り上がったのはいうまでもない。




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