14・祭りの終わり
1・揺れる想い
桃史郎たちがグランドへと駆け出してから、そほど経っているわけではなかったのだが、弦音が気絶したままの樹里を介抱しながら待っている時間というのは長く感じられた。
周囲の人たちはみな眠らされている。
この場で起きているのは弦音と彼のそばにいる二匹の霊獣または神獣ともよばれる二匹の狼だけだ。そのうちに一匹は人間の女性を形どったままで周囲を警戒していた。
(俺はこんなところでなにをやっているのだろう?)
弦音はつい先ほど自分の目の前に起こった出来事を振り返る。突然の蝶の群れ。次々と人が倒れていく。かと思えば、まるでゾンビのように襲い掛かってきた。
その中で弦音はなにかしたのだろうか。
弦音は眠っている樹里の顔を見た。
弦音がやったことといえば、巨大な蝶へと変貌を遂げたステージのほうへと樹里を引き摺りこもうとした武村を停めようとしただけだ。
結局、阻止したのは、朝矢だった。
弦音は朝矢の言われるままに樹里を連れて逃げてきたにすぎない。その間もなにかしたわけでもなく、いまも朝矢の使役獣だという二匹の狼に守られている状態だ。
(俺ってなにしてんだろう?)
もう一度問いかけるがまったく答えは出ない。
——助けて、杉原
脳裏には渋谷の事件が過った。
助けを求める樹里。必死に手を伸ばしたのにまったく届くことはなかった。
まったく自分には力がないのだ。
助けを求める彼女を助けるための力など持ち合わせてはいない。
(俺はなぜここにいる? 俺はなぜ……)
「どうやら終わったようだ」
その言葉にハッとして野風を見上げる。
野風の視線はグランドのほうへ注がれていた。
「しかし、朝矢の霊力が消えてしまったな。“やつ”が出なければよいが……」
「それは大丈夫だろう。“那津鬼”がいる」
心配する野風に対して、山男がそう答えた。
「ナツキ?」
弦音が思わず聞き返す。
「
野風はグランドのほうを見たのままで答えた。
「使役鬼?」
その言葉の意味が理解できずに弦音は首を傾げる。
それはだれのことだろうか。
陰陽師という言葉はきいたことがある。たしか、平安時代に活躍した人たちのことだ。もっとも有名なのは安倍清明だろう。
陰陽師。
その言葉がぴったり当てはまりそうな人物を弦音は知っている。
「店長?」
弦音が尋ねた。
「いや、桃史郎はあれを預かっているだけだよ」
「はい?」
意味が分からない。
他にいるということだ。
「預かっている?」
「そう。預かっているだけさ」
「意味がわからないですけど」
「その話はあとだ。私たちは朝矢の元へ向かうよ。君は彼女のそばにいなさい」
そういって、野風と山男はグランドへと向かって駆け出した。
弦音はただ茫然と彼らの背中を見送った。
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