14・希望

 大量の蝶が朝矢に迫ってくる。朝矢はそれから逃れようとするが蝶の速度は速くすぐ目の前まで迫っていた。


 刀でも弓矢でも消すことができない。


 このまま飲まれてしまえば、せっかく取り戻した霊力がまた吸い上げられてしまう。


 もしもそうなれば、朝矢の中にいる“やつ”が現れるに違いない。


 もしも、次に“やつ”が姿を現したならば、自分はどうなってしまうのだろうか。


 さっきは一瞬の暴走だった。けれど、また暴走してしまつたならば、せっかく張り巡らされて結界も崩されてしまうのではないか。


 朝矢の中でその不安が過る。



 同時に驚愕する彼らと血まみれの少女が姿。


 それを楽しそうに見ている角の生えたやつらの影が脳裏によみがえってくる。


 —— こっちにきなよ



 その中の一人が朝矢に手を伸ばす。


 ——こっちにきなよ。もう君は……


「うるせえ」


 朝矢が声を張り上げると同時に刀を思いっきり横へと振った。

 

 風が吹く。蝶たちが吹き飛ばされる。


 けれど、すぐに団体を作って朝矢に襲い掛かろうとする。



 もうだめだ。


 そう思った瞬間に、頭上から稲光が落ちてきて、蝶たちを次々と焼き払っていった。


 そして、朝矢のすぐ目の前に金髪の男が舞い降りてきたのだ。


「那津鬼か?」


「ああ。なに苦戦しているんだよ。お前は?」


「悪い」


 朝矢は金髪で肌黒い男の隣に並ぶ。


「蝶たちは俺が蹴散らす。だから、根源を射ろ」


「わかった」


“那津鬼”と呼ばれた男は右手を蝶へとむかって広げる。すると稲光が起こり、蝶たちを次々と排除していった。その間に朝矢が蝶たちが退いた空間を走り抜ける。


 やがて、巨大蝶の姿を確認した。



「おのれえええええ」


 巨大蝶はその羽根を振るう。朝矢は横に飛んでそれを回避した。


 足をすべらせながら着地した朝矢がすぐさま弓矢を構える。


「こしゃくな」


 巨大蝶が羽根を揺らす。再び蝶が舞う。


「させるかよ」


 金髪の男が朝矢に迫りくる蝶たちを排除していく。


 蝶が消えていく。その隙間に朝矢は弓を放つ。


 弓は一直線に巨大蝶へと向かう。


 巨大蝶がさける暇もない。


 矢はそのまま少女の顔の額を貫いた。


 少女の顔がゆがむ。


「ぎゃあああああああ」


 悲鳴が上がるとともに、突き刺さった矢を中心に光が漏れ始め、あっという間に巨大蝶の姿が消えていった。


 それを見届けた朝矢は膝を折る。


「朝矢」


“那津鬼”が朝矢のほうを見る。朝矢に汗がにじむ。


再び彼の腕に鱗の文様がかすかに浮かんでいる。


「霊力は使い切ったか?」


“那津鬼”が尋ねた。


朝矢の息が荒い。


「ああ、そうだ。今はまだ出てきていない。だから、頼む」



「……。わかった」


“那津鬼”は肩を上下させ苦しそうにしている朝矢に近づいた。



“彼”の右手にはいつの間にか一本刀が握られている。


それを見た朝矢は上を仰ぎながら、背を伸ばす。


直後、“那津鬼”のもつ刀が朝矢の胸を貫いた。







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