13・タッチ

 ステージのすぐそばで襲いかかってくるゾンビたちを尚孝はなぎ倒しながら視線をステージに向けている。

 

 尚孝にはステージの上でなにが起こっいるのかが把握できない。朝矢が刀を取り出してなにかを切り裂いてることはわかるが、なにを切っているのかみえないのだ。


 想像できるのは消えたギターが変化したものに襲われていることぐらいだろう。


 それを見て、尚孝は「くそっ」と悔しさを覚えた。


 見えない。


 彼らのいる世界に足をつけていながら、彼ら戦っているなにかがほとんど見えない状況に少なからず苛立ちを覚えていた。それでも彼はここにいる。


 見えないながらも知識と経験でどうにか見える彼らと渡り歩いているのだ。


 自分ができることなど限られている。


 その限られた中でやるしかないのだ。それ以上のことをやろうとしても足手まといになっていることはわかっていたからだ。


 いまやるべきことは、霊力ゼロの自分が見える範囲の敵を食い止めることぐらいだろう。


 特殊能力がなかったとしても、警察官として経験と特訓が今は役立っていると思いたい。


 逃げようと思えば逃げれる。関わらないでいることもできる。


 それでも尚孝はそういう霊的なものと関わり続けるのは理由があるからだ。


 脳裏には、一人の少女の姿が過る。


 笑顔の素敵な長い髪の少女が「なおちゃん」と自分を呼ぶ声がいまでも聞こえてくるようだった。



 ゾンビたちが襲ってくる。


 自分のなせる限りの体術で応戦していくが、次から次へと復活していくゆえにキリがない。


 別の方向を見ると、成都たちの武器によって倒されたゾンビは元の戻っているようだが、ただの人間にすぎない尚孝にはその効果は皆無だ。


 それでも、“ゾンビ化”していないものやそこから解放されたものたちを逃がすことに貢献はしている。


「ただの人の俺には限界があるぞ。早くどうにか……」



を飛ばせ。


 そのとき、尚孝の耳にナツキの声が響渡った。


 振り返ると、ナツキがこちらへ向かってかけてくる。


「俺が援護に入る。だから、早く投げろ」


 子供の声。しかし、その声はえらく大人びている。


「行けるか? 


「問題ない」


 尚孝はかけてきた少年の手をつかむなり、ステージへと向かって思いっきり投げつけた。


 ステージのほうへと飛ばされたナツキの姿はやがて、尚孝の眼から忽然と消え去った。





 





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