5・誰か故郷を想わざる
恨めしい
恨めしい
なぜ拙者がこのようになったのか。
武村にはわからなかった。
武村の生まれた時代は戦国時代。
日本中が戦っている時代に武士の子として生まれた。父は真田家に仕えていたものだから武村も自然と父とともに真田家に仕え。豊臣家に仕えるようになったのだ。
豊臣の世。
豊臣秀吉の天下統一により、ようやく安念の時代がくるかと思われていた。しかし、秀吉の死により再び混乱の時代へと突入した。
秀吉に仕えていたはずの武将たちが再び争いを起こしたのだ。
後に関ヶ原の戦いと呼ばれる戦により、天下は徳川へと渡ることになる。表向きは豊臣家ということになってはいたのだが、結局のところはその実権は確実に徳川の元にあった。
やがて、徳川は豊臣家を滅亡させることになる大阪の陣と後に呼ばれた戦乱が起こったのも必然のことであった。
その戦いにおいて、武村は父も仕えた君主たちも失った。
ただ唯一、武村に託されたのはどうにか大阪城からのがれることができた豊臣の幼子のみであった。
しかし、逃げ切れずに捕まり、幼子は徳川によって処刑された。武村はなにもできずに見ることしかできなかった。いやできようはずがない。もうすでに武村には肉体をもたずに魂の存在になり果てていたからだ。
それを知らずに、武村は何度も何度も徳川に矢を放った。しかし、矢はそれをすり抜けるばかりだ。それから憎しみだけでこの世をさ迷い、時代が変わっていくことさえも気づかずにいた。
どれほどに時間がすぎてたどり着いた場所で一人の少女を見たのた。
すでに浄化された憎しみの念の代わりに武村の中に飛び込んできた人を想う気持ち。
もう少し触れたい。
彼女と話がしたい。
それさえ叶えばよかった。
そのはずなのに、気づけば欲望が生まれてくる。
彼女を自分のものにしたいと欲望。
そして突如と沸き上がってきたのは浄化したはずの憎悪の念だった。
気づいたときには遅かった。
武村の魂は黒い闇へと落ちていき、やがてかつてあったものが失われていく。
形を変えて武村のすべてを暴走させていき、すべてを破壊するものへとかわってしまったのだ。
「があああああああ」
武村の意識はすでにない。
ただ激しい欲望と憎悪だけの存在となり果てたのだ。
──よし成功だ。さあ、破壊してしまえ。すべてを破壊しろ
武村をたぶらかす声は武村の魂に触手となってからみつき、良心のすべてを消し去っていく。
にくい
にくい
にくい
支配されていく。
──みんな殺しちゃいな。でも、あの男だけはだめだよ。あの男は大切なものだからね
武村を支配する得体のしれない何かがそうささやく。
あの子とはだれか。
武村にはそんな思考はない。
ただすべてを破壊するのみだ。
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