14・化

——あーあー。やっちまったなあ


 声が響く。揶揄するような声が全身を浸食しようとするかのように染み込んでくる。


——人間だぞ。まあ、操られていたみたいだけど、人間だぞ。お前はそれを殺すのか?


 朝矢は愕然としていた。


 茫然と自分を見る武村。


 ゾンビのように漂う人々の虚ろな視線さえも自分を責め立てているように感じられる。



 武村の背後には一人の女子高生がぐったりと倒れている姿。それをみた者たちがまるで復讐でも果たそうとするかのように、愕然と佇む武村にも目もくれず朝矢のほうへとゆっくりと向かってくる。


 顔は青白いというのに、その眼差しだけが殺気に満ち、お前のせいだと責め立てているようだ。


 朝矢は弓を引く。その手はなぜか震えている。


 息が苦しい。


 汗がにじむ。


——殺しちゃったなあ。なあ、つらいか?


 朝矢の内部から響く声。


——つらいか? 本当はあの亡霊を射るつもりだったのにさあ。やっちゃったね。クックックッ……


 迫ってくるのはなにものなのか。


 人間なのか。


 化け物なのか。


 亡霊なのか。


 朝矢には判別できない。ただそれらは確実に自分を殺そうと迫ってきているのだ。


 来るな


 来るな


 朝矢は確実に何者かの力によって操られている人間たちに訴えかけるも、その足は止まらない。



 どこからともなく悲鳴が上がる。


 グランドの外だ。


 おそらく黒死蝶に霊気を吸われていない人たちが操り人形化した人たちに襲われているのだろう。



「気絶させるのってこんなに大変やったんかーー」


「うるさいわね。こういうこともあるって予想つくでしょう!」


 成都と桜花の声が聞こえる。その槍で襲い来る人間たちを気絶させているようだ。


——どうした? さっきみたいにその矢でいればいいさ。できるだろう。


 黙れ


 黙れ


——じゃあ、俺様にその身体渡せよ。そしたら、苦しまなくていいぜ


 だれが渡すかよ!



——強情だなあ。ただお前が俺様に手を差し伸べればいいだけの話さ。そうすれば、この何枚も重なっている門はすべて開くんだよ



 そんなことさせない


——ふーん。ならどうする? 霊気もない。ただ妖気だけ漂わせているお前が人間どもを殺さずにいられるか?



うるせえ


——くくくく。本当にわかってないんだな。よく見ろよ。自分の体を


 朝矢ははっとする。弓を握る腕。


 肌の露出している部分がすべて鱗のようなものが張り付いていたのだ。内側から次々と生えてきていたのだ。その鱗によって腕が膨張するかのように大きくなっていき、袖が破ける。


 同時に腕に激痛が走った。


「うわあああああああ」


 その痛みで思わず悲鳴を上げる。同時に弓が消え去り、再び膝をつく。まだ健全な左手で右手を抑え込むが、鱗が生まれるスピードは止まらない。たちまち身体の右半分が鱗で覆いかぶさろうとしていた。

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