12・助

 嚙みつかれるかみしれないと思った瞬間、弦音は思わず目を閉じる。


 しかし、首筋に痛みは走らなかった。


 それのともに、さっきまであったはずの後藤の重みが背中から消え去り、何かが地面に倒れる音が響いた。


 


「え?」


 弦音が目を開けて後ろを振り返ると、後藤が目を回しながら地面に倒れている。


 白石もまた突然弦音の身体から離されていき、地面に転がった。


「なんだ。これは……。普通じゃないみたいだな」


 声が聞こえてくる。


 男性の声だ。その声の主は樹里を捕らえていた蓮子の制服の襟足をつかむと強引に樹里から引きはがした。蓮子がジタバタと暴れていたが、鳩尾に拳を食らわせられてそのまま意識を失い倒れこむ。それに逆上したかのように絵里が男を襲う。しかし、すぐにその拳が捕まれ、蓮子と同じように気絶させられた。


「芦屋さん?」


 弦音の目の前にいたのは、芦屋尚孝だった。

 

 尚孝は拳を握り締めたままで、弦音を一瞥する。


「これはどういう状況だ?」


「わかりません。黒い蝶がたくさん出てきて、皆倒れちゃって、その蝶たちを有川さんたちが追い払っていたら、武村のやつが江川を連れ去らおうとしたところを有川さんが助けてくれて」


「わかった。とにかく、君はその子を連れて逃げたほうがいいな」


「え?」


「その子を連れ去ろうとしたのだろう? ならば、少なくともここにいてはいけない。とにかく、会場から離れるんだ。まあ、最も会場の外に出たら安全とはいえないけどな」


「はい?」


 尚孝にそう言われて、視線をグランドの外へと向ける。


 すると、そこにはたくさんの人が倒れていた。しかし、たちまちマリオネットのようにユラユラ揺れながら立ち上がってくるではないか。


「うわっ」


 弦音は思わず声を上げた。




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