11・襲

「杉原? 杉原、いったいどうしたのよ」


 樹里には何が起こったのか全く把握できないでいた。武村に腕を掴まれたかと思ったら、次は彼女を取り合うかのように武村と弦音が彼女の腕を引っ張りあった。その後に朝矢が来て、武村から樹里を離した。


 そこまでは何となく把握している。そのまま彼女は弦音の上に馬乗りになっていたのだ。


 一瞬、弦音の顔がすぐそこにあったことに驚き、自然と顔が熱くなった。


 そんな彼がなぜか樹里の手を離さないように握り締めたままで、舞台ときまったく反対にあるグラントの入り口へと向かってかけている。



「杉原。いったいどうしたのよ。ねえったら」


 樹里は、握られた手を大きく振る。すると、手が離れていき、弦音はバランスをくずして前のめりに倒れそうになった。どうにか踏みとどめた弦音が振り返る。


「いったいどうしたのよ。どうして、突然走り出すのよ。有川先生がなんで離脱しろなんていったの。あそこにたくさん具合悪くて倒れているのよ」


 樹里がそういいながら、舞台のほうを振り返る。


 すると、倒れていたはずの人たちが起き上がっているではないか。


「あれ?」


 弦音も目を丸くする。


 さっきまでぐったりと倒れていた人たちが突然起き上がっているのもだが、彼らを取り囲むようにいたはずの蝶の群れがいなくなっている。ただ部隊であった場所に相変わらず、大きな蝶が踏ん切り返っているだけだ。


どういうことなのか。


 朝矢たちがすべて消したから、彼らが元に戻ったのだろうか。


 そんな考えが浮かぶ一方で、違和感も出てくる。

 

その動きが正常ではないことは少し離れた位置にいた弦音にもわかったからだ。


「蓮子。絵里」


 その中に樹里の友人たちもいた。


 樹里はすぐさま彼女たちの元へと近づこうとした。


 なにか変だ。


 弦音の中に不安が募る。


 樹里は親し気に彼女たちに話しかけようとした瞬間、「ダメだ」と弦音が叫ぶなり、強引に樹里の腕を掴んだ。


「なによ。さっきから」


「なんか変だ」


「え?」



 樹里が振り向くよりもはやく、樹里は蓮子にがっしりと捕まれ、弦音もまたいつの間にか現れた後藤たちに掴まれていた。


「いたっ」


 しかも強い。


 必死に離そうとしてもまったく離れないのだ。


「どうしたの? 蓮子」


 どこか違う。いつもの蓮子と絵里ではない。とにかく、樹里を離そうとしない。それは弦音もそうだ。後藤や白石が弦音の身体に抱き着いて離れないのだ。そのまま、弦音の腕は樹里から離れていく。


「あっ」


 その直後、樹里の首筋に向かって蓮子がかみついた。


 樹里の眼が見開く。


「江川」


 弦音が手を伸ばすが、すぐさま白石によって抑え込まれてしまった。そのまま、背後から雁字搦めになって弦音を捉えていた後藤が大きく口を開けると思いっきり弦音の首にかみつこうした。

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