6・模擬店にて
そのころ、土御門桃史郎は山有高校の校門前に立ち並んでいる模擬店にいた。焼きそば、たこ焼き、から揚げなど様々な食べ物を物色して、口に頬張っている。その度に干し物がないのが寂しいなど愚痴りながらもおいしそうに食べる姿は、まるで子供のようだ。
学生時代以来の文化祭ということで楽しくてたまらないらしい。その隣で歩く尚孝のほうはというと、まるで子供のようにはしゃぐ男についていけずにため息を漏らすばかりだ。
できれば他人のふりをしたいところなのだが、ことあるごとに絡んでくるのだから、無視こともできない。果たしてどうしたものか。
「桃史郎。食べてばかりいないで、早く会場にいかないか?」
尚孝たちがここにきた目的は模擬店で食べ物をむさぼることではない。ライブを見にきたのだ。
尚孝は偶然にも非番だったこともあり、桃史郎に強引に誘われた。
まあ、自分が教えた弟子がどれほどできるようになったのか気になるということもある。
それなのに桃史郎はいっこうに会場となっている野球場へいく気配はない。
時計を見る。
すでにライブが始まっている。このままだと間に合わないことは確実だ。
こいつはただ食べにきただけじゃないのかと思う。
しかもそこら中の生徒たちに干し物はないかと聴きまくっているものだから、生徒たちからの冷たい視線が痛い。
やはりここは他人のふりをして離れるべきだろう。そのまま会場に一人行けばいい。そう思って離れてみるが、すぐに捕まってしまう。
そういった具合でまだ入り口からほとんど進んでいない。
そんな中、桃史郎が突然「おや?」と空を見上げた。
どうしたのだろうと尚孝も顔を上に向けるが澄み切った空が映っているだけだ。
「山男、どうした?」
桃史郎の視線は下へ向く。
どうやら桃史郎の視線の先には山男がいるらしい。
霊感のない尚孝にはもちろん全く見えていない。それは周囲の人たちもだ。ゆえに突然下を向いて独り言を言い出した桃史郎を不審な目で見ている。
「桃史郎」
尚孝が声をかけると桃史郎がこちらを向いた。けれど、意識は尚孝ではなく、なにもない空間へと注がれているようだ。
どうしたのかと視線だけを尚孝にむけて尋ねる。
「あらら」
しばしの沈黙ののちに桃史郎が目を大きく見開く、なにもない空間(桃史郎の視点だと山男)へと注がれる。
一瞬の動揺。それがいったいなにを意味するのか尚孝にもわかった。
おそらく桃史郎にとって想定外のことが起こっているということだ。
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