4・演奏が始まる

 ライブは最高に盛り上がっていた。その舞台袖で次の出番を待っているバンド部のメンバーの緊張は最高潮へ達している。自然とさわさわするメンバーたちの中で、三神だけが食い入るように舞台で演奏を披露としている“レッド”というバンドを見つめていた。


「すごいよねえ」


 メンバーの一人がいうが、それに返答することはない。ただじっと見ているのだ。


「どうしたんですかあ? 先輩?」



 異様なほどの食いつきように青子が怪訝に感じて、三神の肩に触れる



 三神はハッとして青子を振り返った。


「どうかしました?」


 その表情がひどく驚いている様子だったために青子は不安を覚えた。


「いや、なんか圧倒されたから……」


「そりゃあ、そうですよお。ボーカルはプロですよお。プロ」


 他のメンバーか青子の代わりに答えた。


「そうじゃないわ。すごいといったのは……」


 三神の視線の先にあるのは、キーボードを弾く桜花の姿だった。


 どうやら、自分と同じ楽器を弾いている桜花のことを言っていたようだ。


「澤村さん? あの人、なんかお母さんがピアノの先生だったらしいんですよお。だから、小さいころからやっていたそうですウ」


「小さいころから? じゃあ、私と同じ……」


 その言葉にメンバーだれもが首を傾げた。


「なにいっているのよ。雅。あんたが始めたのは高校に入ってからじゃないの」


 三神とは中学からのつきあいがあるメンバーの一人がいう。


「え?」


 三神は一瞬きょとんとするが、すぐに納得したような顔になる。


「そうだった。そうだったわ。私、ピアノはじめて一年ぐらいだったわ」


 そういいながら照れ笑いを浮かべる。


「もう、なにいってんのよ。雅ったら」


 そんな会話をしている間に“レッド”のパフォーマンスが終わる。


「みなさん、ありがとうございまーす。次はバンド部の演奏です。皆さん、私たちがはけるからって、皆さんまではけないでくださいねー~~。バンド部の演奏中に飛び入り参加する予定中でええええ」


 松澤愛桜がそんなことを言っている。


 やがて“レッド”のメンバーが舞台袖へと戻ってくる。


「がんばってね」


 松澤愛桜がにこやかな顔で青子たちにいった。


「いくわよ」


 三神の号令によって、バンド部のメンバーが舞台へと出る。


 その途中で、青子が朝矢の袖をつかむと耳打ちをする。。


「朝矢先輩。なんか妙なんです」


「はっ?」


 朝矢は顔をしかめる。


 その様子を見ていた愛美が頬っぺたを膨らませてこちらを睨みつけていることを知りながらも青子は話を続けた。


「三神先輩が変なこといってたんです。だから、気をつけたほうがいいかもしれません」


「青子。なにしているのよ」


「はーい。いきまーす」


 バンド部の先輩たちに呼ばれて、青子はステージへとあがっていった。


 朝矢は彼女たちのほうを振り返る。


「朝矢ああああ。青子となに話していたのよ」


 愛美が不機嫌そうに尋ねているが、朝矢はそれを無視した。


「聞いているの?  ねえ。ねえったらああああ」


 なんども耳元で騒ぐ愛美のほうを振り返った朝矢は一言「やぐらしか。黙れ」と怒鳴りつけた。


 ムッとする愛美をよそに朝矢の視線は、キーボードの位置についた三神へと注がれる。


「山男。店長きているだろう?」


「ああ、かぐら骨董店のやつら引き連れて見にきているようだ」


 朝矢の足元にいた山男が答えた。


「店長に知らせてくれないか? なにか起こりそうだ」


「朝矢?」


 愛美が朝矢を見上げる。


 その眼差しは真剣そのものだった。


 なにかが起こる。


 愛美だけでなく、成都や桜花にも緊張が走る。


「御意」


 山男の姿が消える。


 なぜか不穏な雰囲気が漂い始める中で、弦音だけがなにが訝しげに首を傾げていた。




 


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