2・レッド

文化祭三日目、バンド部の演奏は午後からということになっている。普段は野球部の使うグランドにステージが組まれ、舞台での催し物はすべてそこで行われることになっていた。もちろん、天気のよいときに限ってのこと。もしも雨天の場合、ステージイベントは体育館で行われることになっている。

 

 文化祭の三日間、見事なほどの晴天。


 ゆえに広々としたステージ上で演劇部や合唱部、吹奏楽部などの部活動によるパフォーマンスが行われた。

  

体育部に関してはいまいちの成績なのだが、文化部にいたってはそれなりの実力が備わっており、来客たちの楽しみがそこに集中している。ゆえに期待の眼差しがステージのほうへと向けられているのだ。


 そんな中でバンド部というものは新参者だった。なにせ、今年できたばかりの部活動で部員は五人はかいないガールズバンドといった感じだ。


 だから、彼女たちの緊張は相当なものだった。


「お前も固まってんじゃねえよ」


 山有高校ガールズバンドの前座的なものを務めることになった『レッド』の臨時メンバーの弦音は完全に固まっていた。


 それに対して朝矢が背中を思いっきり叩いたのだ。


 弦音は前のめりになって倒れそうになったがどうにか食い止める。


「いきなりやめてくださいよおおおお」


「うるせえ。緊張するのはわかるが、石になられてもこまる。しっかりしろよ」


 再び弦音の背中を叩く。


「おいおい。そんなにバシバシたたくんやないでえ」

 

 成都が朝矢の肩に腕を載せて、顔を近づけながら、なぜかニヤニヤと笑っている。


「なんだ?」


「おれは知ってるでえ」


 朝矢は眉間に皺を寄せる。


「あんさんが一番緊張してるやろう。 あんさんはあがり症やからな」


「うるせえ。黙れ」


 朝矢が怒鳴りつける。どうやら図星らしい。


(なんだよ。緊張をごまかすためにオレを叩いていたのかよおおお)


 弦音がムッとする。


 やがて、ステージのから司会者の声がしてきた。


「ただいまよりバンド部の演奏をはじめたいと思います。まずその前にゲストを紹介したいと思います」


 司会者が台本をそのまま読んでいるらしく、淡々と説明している。


「一番緊張しているのは、司会者のようやなあ」


 成都は舞台のそでから、ステージにいる女子高生を見ながらいった。


「もう盛り上がりにかけるううううう」


 朝矢のすぐそばにいた愛美が声をあげたかと思うと突然、ステージのほうへとズカズカと歩みだした。


 彼女の姿をみた観客たちが騒然としたのはいうまでもない。


 誰からともなく歓喜の声が上がる。


 そんなことお構いなしに司会者のほうへと近づいた愛美は、強引にマイクを奪い取った。


「こんにちわあああああ。“レッド”でーす」


 テンションマックスで手をふる愛美に対して、観客からの歓声が響く。それに答えるように満面の笑みを浮かべて手を振る愛美の姿に、朝矢たちも関心した。


「愛美ちゃんは歌姫なんやなあ」


 成都はそんなことをつぶやきながら、視線を朝矢に向ける。


「なんだよ。おい」


 朝矢はぶっきらぼうに成都を見た。


「いやあねえ。なーんか、一瞬で遠くにいったみたいや。なあ、朝矢」


「うるせえ。いくぞ」


 朝矢がステージのほうへと乗り出していく。


「ほんま。素直じゃないなあ」


 そういいながら、どこか含んだような笑みを浮かべている成都に対して、弦音は首を傾げた。


「おれたちもいくでえ」


 愛美が場を盛り上げている間に朝矢たちはステージに上がり、自分たちの持ち場についた。


「さあ、盛り上がっていくわよおおおおお」


 朝矢たちの前にたった愛美がそう叫ぶと、朝矢がギターを響かせ始める。それに続いて、成都のベースがなり。桜花のキーボードが響く。


 さて次はドラムというときに、弦音は右往左往した。


「おーい。とりあえず、どこかたたたけえええええ」


「はっ、はい」


肩に乗っている金太郎に促されて、弦音が慌てて叩いた。


とにかくやるしかない。


三日ぐらい練習した。


それなりにできるようになったし、なんとか合わせられるようになった。


「一曲目いきまーす」


 そして、“レッド”の演奏が始まった。

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