4・他校の不良
弦音の実行委員の役割は見回りだった。
クラスや部活ごとで行われている展示品や模擬店、出し物等を回り、“山有高校文化祭実行黙示録”というマニュアルに乗っ取って運営されているかのチェックをすることだ。
基本的にこの高校というものは自由で、文化祭運営には先生が口を挟むことは少ない。いや、少ないというだけでまったくないわけではなかった。特に今年の文化祭実行委員の顧問になった文徳先生なんて、とにかく口を出してきたのだ。小太りで汗かき。いつもフェイスタオルで汗をぬぐっており、不自然な七三わけの髪型は本人は隠しているようだったが、明らかにカツラだということは生徒のだれもが知っている。
そして、なぜかいま弦音の目の前で文化祭に浮かれて髪をカラフルに染めてしまっている生徒たちにガミガミといっている最中だった。
「いいじゃねえかよ」
髪を染めているやつらというものはいかにも柄の悪そうな少年たちで、身長それなりあるから、先生のほうがえらく頼りなく見える。
しかもいままさに弦音が通ろうとしている道端で数人の人間が集まっているのだから。邪魔で仕方がない。
「おいおい。なにしてんだい。あいつらに邪魔だっていえばいいじゃねえか」
肩にいる金太郎がいう。
そうしたいのは山々なのだが、その柄の悪そうな生徒たちととにかく怒りをヒートアップさせている文徳先生の威圧的な雰囲気にのまれて身動きが取れなくなっていたのだ。
それにもしも自分が一言いえば巻き込まれかねない。
「お前。情けねえな。実行委員だろう? ここは男らしくどうにかしろ」
「うるさいなあ。こういうことには巻き込まれたくないよ。よし、遠回りするか」
「巻き込まれたくないねえ。でも、あの子。江川樹里だっけえ」
「なっ、なんで、そこで江川が出てくるんだよ」
「聞いたぞお。祓い屋になったきっかけってあの子なんだろう?」
「なってないよ。祓い屋なんてなって……」
「おい、お前」
そのときだった。いつの間にか、先生がさり、柄の悪そうなカラフル頭の少年たちがこちらを見ているではないか。目つきもやはり悪い。こんなやつはここの生徒にいたのだろうかと思とながら見ていると、どうも制服が違う。
山有高校と同じブレザーのようだが、濃い緑色をしている山有高校のブレザーと違い、弦音の目の前にいる少年たちのブレザーは黒だった。ネクタイはしていないが、ブレザーに施されている校章が山有のそれとはまったく違っていた。
(げっ。劉基工業のやつらじゃん)
劉基工業とは、この山有高校とは徒歩十分たらずのところにある工業高校で定期的に荒れることで有名だ。とにかく柄の悪い人たちが集まってしまうらしい。
「お前。実行委員だな」
その中でいかにもリーダーらしきモヒカン頭の男が尋ねた。
「えっと、そうですけど」
自然と弦音の声が震えている。
「弦音。こいつらに一発かましてやれ。なんか、むかつくぜ」
金太郎がいう。
(無理。無理だああ。いかにも強そうじゃん)
弦音のいうように少年たち三人はガタイもよくいかにも鍛え上げられているといった感じだった。とくにモヒカンの男の身体つきは服の上でも筋肉が盛り上がっていることがわかる。一発殴られただけでも命の危険にさらされそうだ。ここはうまく交わして逃げるしかないだろう。けれど、どうやって逃げるべきなのか。
「あのヅラ先。髪のこといわれたんだけどよお。構わないよなあ」
(ヅラ先!? ヅラ先ってなんだよ。いやいや、明らかなヅラだけど)
そんな突っ込みを心の中で入れる。
「俺たち、よその学校だしよお」
「そう、俺たちの学校はどんな髪しても許されているしなあ」
「えっと」
威圧的な目で見られて、弦音は言葉が出ない。
普通に大丈夫だと答えるだけではないか。
思わず弦音はぎこちない笑みを浮かべてしまう。それが気に入らなかったのか、モヒカンの男が腕を鳴らし始める。
「なんだ。その態度は」
「俺たちに文句でもあるのかあ」
いかにも不良がいいそうなセリフを吐く。
ここは逃げるべきだよな。
「やっちゃえ、やっちゃえ。弦音。変わりに俺がやってもいいぜ」
金太郎がなぜか発破をかけてくる。
(無理。むりだから)
少年たちは殴る気満々で弦音を取り囲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます