3・レッドの元メンバー
「平成〇〇年度山有高等学校第30回文化祭をはじめたいと思います。この三日間。存分に楽しみましょう」
生徒会長のあいさつにより、文化祭がはじまった。
バス停のすぐ前の坂の入り口には普段はないアーチ型の入り口があり、そこには『山有高校へようこそ』と書かれている。そして、次々とアーチを潜ってやってくるのは、山有高校の生徒ではなく、その家族や近所の人たち。ときおり他校の制服を着た人や大学生などさまざまだった。アーチを潜ってすぐの坂の両端には生徒たちが待ち構えており、次々と自分の店ら来るようにとチラシを配りながら呼びかけをしていた。
「すごか。すごかやん」
興奮気味に九州訛りの青年たちが目を輝かせながらあちらこちらへと視線を向けている。
「おいおい。そんなにはしゃぐなよ。それに方言まるだし」
異様にはしゃぐ小柄な男とは逆に大柄で短髪眼鏡の男が真面目な顔でため息を漏らしている。
どちらも大学生らしく私服姿だ。
「しかしさあ。どうして。あいつらはここで演奏することになったとや?」
「僕は知るわけないよ」
「私たちバンド部の演奏を聞きに来てくださーい」
そうこう話していると、バンド部だという少女がチラシわ二人に渡した。
「あつ」
二人を見た瞬間に少女が声を上げる。二人もまたその少女の顔を見て唖然とした。
「君ってたしか」
「もしかして。レッドの元メンバーですよね」
三人の声が重なった。
「ああ。そうか、やっぱり、あの時の子だね」
小柄で人懐っこそうな青年が尋ねる。
「覚えていてくれたんですかあ。うれしいですウ」
少女・青子はニコニコと笑顔を浮かべる。
「そういうことか」
長身の男がポンと手のひらを叩いた。
「どういうことや?」
小柄の男はピンときていない様子で長身の男を見上げた。
「はい。私がレッドにオファーしたんですウ。でも、お二人は参加してもらえないんですよねエ」
「ああ、オレはその日大学の講義で、こいつは試験があるから無理」
「今日だったらよかったけどなあ」
「なんばいいよっとね。ミッチー。試験やっけんどちらにしても無理やん」
「大丈夫だ。試験なんて大したことない」
「ほほお。優等生がよくいうたい」
「あのお」
二人の会話に青子が口を挟んだ。
「どうでもいいかもしれませんが、柿添さんって有川さんよりもなまってますね」
青子の言葉に柿添と呼ばれた青年が顔を歪めた。
「なんばいいよるね。あいつの訛りのほうが強烈やん。おれはがっばい標準語ったい」
「いや、なまっている。明らかになまっていてなにを言っているかわからないぞ」
光吉のクールなツッコミに柿添がパンチを食らわそうとするが見事にさける。
「なんばいいよっとや。おれがどこがなまっとる」
訛っている。
明らかになまっているために、青子はニコニコと笑顔を浮かべながらも内心、なにを話しているかわからないよと突っ込みを入れる。なんとなく、光吉とのやり取りでわかる程度だ。
「おめえら、なにしているんだ?」
「あああ。あーくーん♥️」
いつの間にか、朝矢の姿が坂の上にあった。その姿を見つけるなり、なぜか柿添が猛ダッシュで駆け上がっていった。
「ひさしぶりいいいいい」
柿添は思いっきり、朝矢にパンチを食らわそうとしたが、やはり避けられ、そのままバランスを崩して前に倒れそうになるが、すぐに立て直した。
「相変わらず元気だな」
「がははははは。それがおれたい」
「あーうるさい。うるさい」
その後を静かに登ってくる光吉。
光吉は朝矢の下から上までみた後に自分の頭に手を載せたかと思うと、その手を朝矢に頭にスライディングさせた。
「よしっ、僕のほうが少し高い」
「あまり変わらねえだろうが、逢う度に背比べするのやめろよ。くそ眼鏡」
「ああ、なんだとお。陰険男」
「なんだとお」
なぜか険悪なムードになる二人。
「はーい。はーい。仲良くしようや。おれたちは鎮西徐福でいっしょに汗を流した仲間じゃなかかあ」
その険悪なムードを研ぎらせたのは、やたら元気な柿添だった。
「それよりもマジでなにしにきたんだ?」
「それはこっちのセリフだ。どうして、お前がそんな服を着ている」
光吉がいうように朝矢がいま着ているのはエプロンだった。エプロンに三角巾。その下は普段着なのだが、なぜ大学生が縁もゆかりもない文化祭でそのような服を着ているのか疑問でならないのだ。
「うるせえ。詮索するな。ぼけ」
「しねえよ。お前が変なのは昔からだろうが、うすらトンカチ」
「なにいいい」
また険悪なムード。
「だーかーらー。久しぶりにあったとやっけん。仲良くしようや。そうだ。そういえば、ドラマー見つかったらしかね」
柿原が話題を変えた。
「あっああ。バンド部じゃないが、臨時的にうちのバンドに入ってくれている」
「そうなんですう。私の一つ上に先輩でえ。弓道部の主将なんですけどおお。頼んじゃいましたーー」
青子が入ってきた。
「そいつはうまいのか?」
それに食いついたのは光吉だった。
「さあ、どうでしょうねえ。昨日始めて触れたっていいますからねえ」
「おい」
朝矢が声を荒げた。
「あっ」
朝矢に睨まれて青子は慌てて口を閉ざした。
「なんだよ。それ。それじゃあ、だめだろう。そいつに合わせろ。僕が見てやる」
光吉が突然ずかずかと校舎のほうへと歩き始めた。その後を柿添が追う。
青子がどうしようといわんばかりに朝矢を見る。
「とりあえず、あいつのところに連れてってやれ。あいつもこうと思ったら聞かないからな」
「はーい」
青子は呑気な声で片手を上げると、彼らの元へと駆け寄った。
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