3・突然
「そういうわけで、特訓することにしましたー」
「いきなりなんだよ。バカ店長」
「あれ?」
学校の文化祭の準備が一段落したのと同時に、弦音の視界が突然見店の風景へと変わった。それと同時に突然目の前に現れた『かぐら骨董店』の店長である桃史郎がなぜかハイテンションに言い出したのだ。突然、景色がかわったことに動揺することもなく、店長へ冷静にツッコミをいれる朝矢のとなりで、弦音は右往左往と周囲を見回している。
「どうしたんだい? 弦音くん」
「あのお。俺さっきまで学校にいましたよね。しかもペンキ塗っている最中だったはず」
弦音のいう通り、彼の手にはちゃっかりペンキブラシが握られており、学校指定のジャージの上にペンキで汚れたエプロンを着ている。
突然、バンドの話を持ち掛けられた彼は、断り逃げるように文化祭の準備をしていた生徒会室へと戻っていった。それから、他の文化祭実行委員とともに看板のペンキ塗りをしていると、チャイムが鳴りは出す。とりあえず、一度撤収して、ホームルームが終わってから残りの作業をしようという話になった。それゆえに、片付けを開始しているとふいに目の前に忽然狼と子供が現れたのだ。そう弦音が認識した瞬間に視界が一度真っ白になった。次の瞬間、『かぐら骨董店』の中央にあるテーブルの椅子に座らされていたのだ。
「問答無用だな。おい。シゲたち残してきたぞ」
朝矢が両腕を組みながら言った。
「彼らにはしばらく武村くんの見張りをしてもらおうと思ってね」
「はあ? いらないだろう。あいつがなにか仕出かすとは思えない」
「武村くんも男だからねえ。つい、やっちゃうかもしれないよお」
「ええええ?」
弦音が思わず声を上げる。
「隣でうるせえよ。頭に響くだろうが、ボケ」
「すみません」
朝矢に怒鳴られて、弦音は委縮する。
「それで、特訓っていうのはなんだ?」
「それは決まってているよ。弦音君にドラムをマスターしてもらおうって思ってるんだよ」
「ちょっと、まってくれ。俺はやると決めていないぞ。それに、本番って明後日だよな。無理だよ。ぜったい無理」
「だから、耳元でわめくな」
朝矢はおもいっきり椅子を蹴りつけた。そのせいで弦音の身体が床に転がる。
「痛い。なにするんですか? 有川さん。俺、悪いことしていませんよ」
「ああ。文句あるかあ」
「ひっ」
朝矢に睨みつけられた弦音はさらに委縮する。
「だめだよ。朝矢くん。只でさえ目つき悪いんだから、睨みつけたらかわいそうだよ」
「うるせえ。それで杉原の特訓に俺をつきあわせるのか?」
「そうじゃないよ。忘れたの? 今日は定期健診の日だよ」
「あっ。そうか、今日は17日だったな」
定期健診? その言葉に弦音が疑問を抱いたのは言うまでもない。
「有川さん。どこか悪いんですか?」
朝矢はなにも答えずに立ち上がった。
「いまからでいいのか?」
「いいよ。さあ行っておいで」
そういうと朝矢が店の奥のほうへと歩き出した。扉を開けるとその向こう側へと消えていく。それを弦音は見送った。
「さてと、特訓のことだけど」
桃史郎の声に弦音は振り返った。
「君にとっておきの先生を呼んだよ。そろそろ来るころかな」
「おいおい。突然過ぎるだろうが」
その直後に店の扉が開き、芦屋尚孝が面倒そうな顔をして、頭を掻きながら入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます