8・文化祭前日
1・平凡な時間
文化祭まであと一日。そういうことで、授業も部活もなく、全校生徒総出で準備に取り掛かる。その日は本来の部活の練習はなく、クラスの飾りつけ校庭での出店の準備等で生徒たちは忙しく駆けずり回っている。特に、実行委員はあっちへいったりこっちへいったりと留まる暇もない。
「なんか、大変そうでござるなあ」
弦音がドタバタとしている様子を見ていた武村が一言つぶやく。
「杉原君は実行委員だからね」
麻美がパネルに色を塗りながら、そう答えた。
「そうでござるか。確か、江川さんもだったでござるなあ」
「ええそうよ。あの子は……」
「けど、なぜか一人ドタバタしているでござるよ」
その一言で同じパネルに色を付けていた白石と後藤が爆笑する。
「そりゃぁ、ツルだかなあ」
「そうそう、ツルは大げさなんだよ。もう少し落ち着けっての」
二人はニコニコと楽しそうにいう。
その間にも大量の荷物を抱えてどこかへと走っていく。
「つうか、あれは、ぱしりだな」
「ぱしり。だれにぱしりされているんだろうな?」
「杉原~! どこに持って行っているのよ!? それはこっちよ」
「はあ? まじで」
樹里の叫び声が聞こえたかと思うと、弦音が再び引き返していく姿が廊下側の窓から見えてくる。
後藤たちの疑問は即座に解決した。どうやら、使いっぱしりにしているのは樹里だったらしい。
「完全に尻にしかれているな」
「ハハハハ。あの二人が結婚したら、100パーセント。かかあ天下だな」
「あの二人は結婚するのでござるか」
その冗談に武村が真面目な顔をして尋ねてくるものだから、白石たちは固まってしまった。武村が「どうしたでござるか」と首をかしげていると、麻美がプッと吹き出してしまった。。それをかわきりに白石と後藤もお腹を抱えて笑い始めた。
「それは遠いかもなあ」
「そうそう。あんなにわかりやすいのに、江川のやつ、まったく気づいていないからなあ」
「ほんとうにすみませんね。親友ながら、あの鈍感さに呆れちゃうわ」
そんな話をしていると教室の扉のほうから、「みんな休憩にしようよ。先生からの差し入れだよーん」といいながら、担任の先生と買い出しに行っていた蓮子と絵里が戻ってきた。
その手には買い物袋がぶら下がっている。
それを見た瞬間、教室にいた生徒たちが作業をやめて、彼女たちのほうへと群がる。
「こらこら、みんなの分もあるから、順番だ。順番」
先生がそう言っている間に蓮子と絵里が買い物袋に入れていた紙パックとパンを一人一人に渡していく。
「私たちも取りにいこうよ」
麻美の一言で武村たちも差し入れを取りに行く。
「あれ? 有川先生いないの?」
クラスの一人が差し入れをもらいながら尋ねた。
「有川先生はバンド部」
先生が即座に答える。
「バンド部?」
「どうやら、バンド部の助っ人に呼ばれたそうだ。有川先生は昔バンドしていたそうなんだよ」
先生が説明すると、生徒たちからすごいやら、なにを演奏していたのかと尋ねてくる。よく知らない先生が困惑したのはいうまでもない。
「バンド?」
武村にとっては聞きなれない言葉に首を傾げたのはいうまでもない。
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