2・話し合い

山有高校のバンド部は今年に入ってから設立されたばかりだ。ゆえにお披露目をするは文化祭で初になる。吹奏楽部や演劇部の発表もあるから、バンド部の持ち時間が20分ということになった。演奏曲は四本程度。けれど、彼女たちがいま現在発表可能なのは三曲で10分足らず。あと半分の時間をどうするかと模索しているとき、青子が知り合いのバンドに頼みますと言い出したのだ。それを依頼された朝矢たちは正直戸惑った。


 朝矢たちがストリートでバンドしていたのは、半年前までの話だ。愛美のデビューが決まったことにより、バンドは解散となっている。


 だから、ギターに触れることがなくなって半年。うまく弾けるとは思えない。


「そういうことで、私たちの出番は明後日の二日目になります」


 バンド部が練習している第二音楽室の中で朝矢たちの三人は、部長も三神雅からの説明を受けていた。その際、文化祭のプログラムをもらった。プログラムといっても、バンド部がお披露目をするステージでのイベントのプログラムのみで他の展示物といったものが掲示されていない簡素なものだった。


 出番は三番目。


「それで、最初に俺たちに歌わせると……」


 プログラムを見て、朝矢は不機嫌そうにいった。


「はい。どうせなら、注目を集めたいんで、最初にお願いします」


「はあ? 注目を集めたい? バカじゃねえの」


「ちょっと、また有川は」


「ええやないか。トモに任せとけ」



 桜花が止めようとしたが、成都がそれをなだめた。


 まかせていいものか。


 一応朝矢は実習生という立場だ。教員を目指すという設定なのだからもっと教師らしくしたほうがいいのではないかと桜花は思う。


「心配せえへんでええ。なにせ、にせ……」


 偽物と言いかけたところで桜花に睨まれ、成都は口を閉ざした。


「確かに注目集まるさ。ボーカルがいま売り出し中の歌姫だからな。その後はどうだ? お前らの番になったら、観客が減る可能性があるぜ。がっかりするのはお前らだろ」


「それはそうですが……」


 三神はどうしたものかと顎に自分の右手をそえながら唸る。


「それは仕方ないです」


 それとは逆に能天気な声をだす青子。


「それは私たちもわかってることなんですよお。そこでえ、そのまま皆さんにはバンドに参加してもらうってのはどうでしょうかあ」


「はあ?」


 朝矢たち三人は口をあんぐりさせた。


「ハハハハハ。相変わらず、突拍子もないこといわはるなあ。青子ちゃんは~」


「バカか。お前」


「無理よ。無理。明後日でしょ。合わせられるわけないじゃない」


「それはだーいじょぅぶですう。先輩たちならいけますう」


 そう言いながら、楽譜を朝矢たちに見せた。


「私たちってまだオリジナルがないんでえ。有名な曲にしているんですよお。その中心が松澤愛桜の曲なんですう。見てください。私たちの演奏予定の曲三曲のうちの一曲はあ。松澤愛桜の曲でえ。もう一曲は……」


「“空の澄んだ街”……」


 三神の言葉に朝矢たちが振り返る。


「あの曲か」


「ああ。あれやなあ。確か、朝矢が博多時代から弾いていた曲やったよなあ」


「ああ。あれは、“レッド”の最初のオリジナル曲だ」


 朝矢は二年前のことを思い出した。

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