2・蝶が舞う

「うわっ」


 武村が呆然と見ている隣で弦音が悲鳴を上げて座り込んでいる。その様子を怪訝な顔で見る部員たち。


『騒ぐな。弦音。他のやつらには見えんのだぞ。じっとしておれ』


 山男がたちまちいうと、弦音は慌てて口を塞ぐ。この行動に、後輩たちは「最近先輩へんだよねえ」とささやきあっている。


 黒い蝶々のようなものが無数飛び回る。的にそばにいたはずのものたちが徐々にこちらへと近づてくる。


『くれ、くれ、器、くれ』


 蝶々のほうから無数の声が聞こえる。


 弦音の顔が青ざめていくが、必死に声を洩らさないように口を塞ぎ続け、武村はなにが起こっているのかわからずに愕然としていた。


 なにかに似ている。


 ふいにそう思った。


 どこかでみた光景。


 そうか。


 あの時だ。


 武村が初めて朝矢と出会った自分の調伏の日。無数の武者たちが襲い掛かってきた。


 その状況に似ているのだ。


「ちっ」


 朝矢は舌打ちをするのと同時に、矢が放たれた。矢は蝶々の大群を濡れて、向こうにある的に突き刺さる。


ぎぁぁぁぁ


すると的のほうからどす黒いものが噴き出し、一瞬人の形をとった。男か女か判断するよりも早く、黒いものが矢に吸い込まれていき、自分たちのほうへと近づこうした蝶々たちも溶けるように消えた。

 

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