6・適当だろう!

 弦音は武村を人気のない階段の踊り場のほうへと連れて行った。


「どうしたでござるか? 杉原殿」


「どうもこうもないよ。マネキンとかいうなよ。変な人に思われるだろう」


「そうござるか? 事実でござらんか。拙者の姿はマネキン。マネキンの身体を借りたにすぎぬのでござる」


「それはそうだけどさあ。みんなには人間に見えるんだよ」


「そうなのでござるか?」


「って知らなかったのか?」


 キョトンとした顔をする武村に弦音は眼を丸くする。


「とりあえず、ここに入っていれば、西岡さんに近づけるといわれただけでござる。後は、杉原殿と有川殿がどうにかしてくれるということだったもので……」


 弦音はその言葉に愕然とした。


 一体。どんなやり取りをしたのだろうか。特に説明を受けていないのは弦音だけではないらしい。この張本人も言われるままに行動しただけにすぎない。


 弦音の脳裏には店長の笑顔が浮かぶ。知り合って間もない。しかも、店にいてもほとんどいなかったために、面識があるという程度で性格まではまったく把握していなかった。武村の話を聞いていると結構いい加減な人だということがわかる。それなら、朝矢や桜花が愚痴る事情も分かる気がした。


「相変わらず、いい加減だな」


 弦音がいおうとするよりも早く後方から声がした。


 振り返ると、朝矢が一階へと降りる階段の踊場から弦音たちを見下ろしている。


「有川さん」


 朝矢が下りてきた。


「たくよお。あのバカ店長のやろう。本当に読めねえよ。こいつの恋の手助けしろといったり、校舎をみまわっておけといったり、たくっ、勘弁してくれよ」


 朝矢は悪態つきながら自分の髪を掻きむしる。


「見回り?」


「ああ、なにか起こるかもしれないってよ」


 弦音は首を傾げた。


 キーンコーンカーンコーン


 その時、チャイムが鳴りだす。


「げっ、もう授業かよ」


 朝矢はげんなりした顔をする。


「有川さん?」


「くそっ、せからしか」


「はい?」


「面倒っていってんの。なんで俺が授業なんてしなきゃならないんだよ」


 そうぼやきながら、弦音のクラスのほうへと歩き出した。

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