7・パートナーについて

「……ということで、おまえは江川と組めよ」


「はっ? どういうことだよ」


 放課後、これから文化祭の話し合いへと向かおうとした弦音に後藤たちが話しかけてきた。話の内容は後夜祭のパートナーに関することだった。


「だから、昼休みの時に江川たちのグループ誘ったわけよ」


「はい?」


「それでオッケー出たの。俺は当然、絵里。横谷は麻生さん。それで……」


「俺は……。日室(蓮子の苗字)~~。くそぉぉ。なんであんなデブなんかとお」


 そう嘆きながら、後藤がいう。そんなふうにいうのは、ちょっとかわいそうだ。


ふいに見ると、蓮子の視線を感じる。


「なにか言ったかしら?」


「いいえ。なにも」


 睥睨された三人は、蛇に睨まれた蛙のように委縮した。


「さあ、行くわよ。部活♡部活♡じゃぁね。後藤くん。パーティー楽しみにしているわよ♡」


 横切る際に、蓮子は後藤に投げキッスをした。後藤の顔が青ざめる。


「はっはい」


 上ずった声で返事をしている。それに対して、蓮子が揶揄したように笑うと、樹里たちとともに教室を出ていった。


「くそおお。絶対に俺を馬鹿にしている」


 そういって、後藤は悔しがった。


 そんなやり取りをしている中で、弦音は樹里とパートナーを組むという言葉に思いをはせた。思い返せば、高校一年の春。入学したその日、一目ぼれしたことから始まりだった。なんとなく、同じクラスで話す機会も多かったのだが、うまく言えないまま一年半が過ぎようとしている。


本当は去年も誘いたかった。


だけど、結局勇気が持てないまま誘えず。


今年はなんかいろいろあって機会を逃したままでいるときに、思いもよらないところからパートナーを組むことになったのだ。


 武村の次いでなのかもしれない。


 いや、そういうことではない。


 後藤と白石は、弦音と樹里をどうにかしようと考えたのだろう。


 その友情に弦音は心から感謝した。


「それよりも、ツル。もう時間じゃないのか? 最終確認だっていってなかったけ?」


「あっ、そうだった。じゃぁな」


 弦音は急いで、文化祭実行委員会の行われる多目的教室へと急いだ。


「なんか、忙しそうでござるな。弦音殿」


「あいつは実行委員だからなあ」


「そうそう、文化祭が終わるまで忙しいの」


「そうでござるか。本当に大変でござるなあ。弓の修行に祓い屋の……」


 そこまで言いかけたときに、武村の口から言葉が出なくなった。


「どうした? 横谷?」

 武村はただ口をパクパクしている。


 その様子に後藤たちは首を傾げている。


「お前ら、杉原はしらないか?」


 その時、後藤たちの背後から声がした。振り返ると、実習生の有川朝矢が立っている。


「ツル……。杉原君なら、話し合いに行きましたよ?」


「話し合い?」


「あいつ、実行委員なんで……。杉原くんになにか?」


「いいや、なんでもない」


朝矢は後藤たちから武村のほうへと視線を向ける。武村の口元には手があった。大人の男の両手が武村の口を塞いでいる状態だったのだ。その背後には、金色の髪をした成人男性がほっとした表情を浮かべる姿がある。やがて、男の姿が消えていき、武村が大きく息を吐きだした。


「じゃあな」


 朝矢は彼らの背を向けると歩き出した。


 息が整ったところで武村が朝矢のほうへと視線をむける。


 朝矢の足元のほうに一匹狼。


 それがこちらのほうを見ている。


 それが先ほど自分の口を塞いだ男だということは即座に理解した。


 武村の口を塞ぎながら、「口外するな」と告げたのだ。


 武村が頷いたのを確認した金色の狼は背を向けて、朝矢に随従した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る