5・相手は誰にするか
「ほらほら、あそこに西岡がいるぞ。誘いなよ」
後藤たちに連れられるまま、武村は教室のほうへと戻った。窓際の席に西岡麻美が友人たち数人とおしゃべりをしているところだった。麻美は楽しそうに笑っている。
(やはり、美しい)
武村はその笑顔を見て自然と顔が熱くなるのを感じた。
「おーい。絵里~」
武村が惚けていると、白石が手を大きく振ると、麻美と話をしていた絵里と呼ばれた少女も手を振り返した。
白石は浮かれたような足取りで彼女のほうへと歩み寄り、なにかを話している。その様子を見ると、白石の彼女とは絵里という少女らしい。
絵里はどこか楽しそうにうなずいているのだが、いったいどんな話をしているのだろう。そんなことを考えているうちに白石は彼女を連れて、こちらへと近づいてきた。
「こいつは、俺の彼女の絵里。協力してくれるそうだ」
「よろしくね、横谷くん」
彼女はどこか含んだような笑みを浮かべる。
「大丈夫なのか?」
後藤が尋ねた。
「大丈夫。うちのグループ。私以外は決まっていないから……」
そういいながら、視線を白石に向ける。わかりやすい。
二人だけの世界が一瞬で広がり、まだ初対面に近い武村でも思わず引いてしまうほどだ。
「見せつけんじゃないよ。うーん、羨ましい。俺も彼女ほしい」
と後藤がわざとらしくうなっている。
「それじゃあ、蓮子にいっておこうか?」
「げっ、それパスな。パス」
後藤は、両手で大きくバツ印を作った。すると、彼女たちのグループで横綱のように大きな身体を持つ少女がこちらを睨みつけた。目線があった後藤がなぜか武村の後ろに隠れた。
「そういえば、杉原君は? いっしょじゃないの?」
「いま、告られ中かな」
後藤が悪戯な笑みを浮かべながらいった。
「そうなんだ。杉原君って意外とモテるのね。ねえ、樹里」
絵里が樹里のほうを振り返った。
「なんで私にいうの? 関係なくない?」
樹里があっけらかんとした口調で答えるものだから、だれもが苦笑いした。
「本当にかわいそうなツル」
後藤が泣き真似をする。
その様子を見ている樹里はまったくわかっていないらしく、首を傾げていた。
「ねえ。あんたら。どうせパートナー決まっていないんでしょ」
「去年と同じよ。適当に選ばれた人と組むだけよ」
樹里もこともなげにいう。
「私は、今度こそ、誘われるとみた」
蓮子はそういいながら、こちらへとウィンクする。後藤の身体が震える。どうやら、蓮子は後藤に好意を抱いているようだが、彼の方は断固拒否しているらしい。
「樹里は違うでしょ」
「はっ? なんで?」
樹里は怪訝な顔で麻美を見る。
「もういい加減に意気地なし解消しないかしら……」
麻美が頬杖を突きながら冷めたような表情で、別のほうを見た。
(そっけない感じも美しいでござる)
武村には彼女の一つ一つの姿がいとおしくてたまらない。
もう少し近づきたい。
ずっと見ていたい。
そんな欲求が溢れそうになる。
――俺の手を借りないかい
武村の脳裏に昨日の男の言葉が蘇る。
――君のものにできるかもしれない。
モノにする?
彼女を自分のモノにする。
そんな響きが支配していく。
欲求が止まらなくなりそうだ。その笑顔もさりげない姿もすべて自分のモノにできるのならば、それ以上の誉れはないだろう。
「横谷くん? どうかした?」
その声にはっとした武村は、麻美がすぐ目の前にいることに気づいた。
「うわっ」
武村は驚きのあまり、バランスを崩して後方へ倒れてしまった。
「大丈夫?」
麻美が上から武村の姿を心配そうにのぞき込む。
「大丈夫です」
武村は慌てて立ち上がる。
「すみません」
武村は自分の後頭部を撫でた。
「本当に大丈夫?」
「はい。大丈夫でござります。拙者はマネキンでござるから」
「はい?」
「マネキン?」
武村の発言に誰もがきょとんとしたのはいうまでもない。
「わあああああああああ」
その時、教室の入り口のほうからかけてくる足音とともに、弦音の叫び声が響きわたった。
「ツル?」
「どうした?」
ものすごい血相でやってきた弦音は、武村の腕を引っ張りながら教室から飛び出していった。
「なんだ?」
「どうしたの?」
弦音の訳の分からない行動に、樹里たちは呆気にとられた。
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