3・神獣の過去
そのころ、朝矢は校舎内を回っていた。
昨日、武村に術を施して戻ってきた桃志郎が「あの学校に少し不穏な気配があるみたいだよ。ついでに調べておいてねえ」と言いつけられたからだ。武村の見張りは弦音に任せて、不穏にものがないかの偵察を始めたのだ。
(不穏というか。モノノケだらけじゃないか)
朝矢が愚痴ってしまうほどに、いたるところにモノノケの影がちらついている。
まあ、学校自体がモノノケや霊魂が集まりやすい環境であるのはわかる。昔から学校の七不思議といったうわさが絶えないのはそのためだ。朝矢の通っていた学校にも噂があったし、霊能力がついた日からいやでもモノノケやら霊魂やら見てきている。しかし、それでもこの学校のモノノケの数が多い。
『鬼門があるのだろうな』
一緒についてきた山男が言った。
「鬼門か……」
『そうだ。鬼門はどこにでもあるものだからな。特に都と定めた場所には、多くの鬼門が存在している。ここが都になってから100年以上が経つうちにずいぶんと鬼門が増えたようだ』
「へえ。山男は以前にも東京にいたことあるのか?」
『そういうわけではない。伊豆にはいたが……』
「伊豆って、静岡だよな?東京からそれなりに離れているだろう?」
『地理のことはよくわからんが、九州よりは近い』
まあ確かにそうだ。九州なんて、羽田から飛行機で一時間半ぐらいはかかる場所だ。伊豆は新幹線でそれぐらいだろうか。
行ったことのない朝矢には想像もつかない。
「伊豆で鬼退治か?」
『いや、昔の
「昔の主?」
朝矢には想像もつかない。昔の主とはどういうことなのか。もうずっと、あの九州の地にいたわけではないのだろうか。
朝矢は山男と出会ったときのことを思い出す。
山男と野風は神社に祀られていた石像だった。しかし、朝矢が過って彼らが守っていた祠を壊してしまい、神狼として復活したのだ。いつから石になっていたのかはわからないが、随分と昔のことらしい。
それからだ。
それから霊能力を得て、朝矢の戦いが始まった。
“鬼”と呼ばれる存在との闘いの日々。
気づけば、十年弱、朝矢は戦い続けている。
「そういえば、聞いていなかったな」
『どうした?』
「お前らの過去」
『話していなかったか?』
「これの封印のためにあそこに留まっていたことぐらいだ。いつからなのかとか知らねえよ」
朝矢は自分を指さしながら言った。
『そうだったか。とりあえず、我らは800年ほど生きておる。いや、一度死んだ。だが、陰陽師の力によって神獣として生き返ったのだ。それからしばらくは生前の主だった者とともにいたが、主が死したのちに九州に封印されてた“鬼”の守護神となったのだ』
「その主は?」
山男は朝矢をじっと見つめた。
『それよりももうじき昼休みが終わる。次の授業は参加するのだろう?』
「あっ、そうだった。しかも俺が教えきゃならねえ」
朝矢はげんなりする。
『大丈夫か?』
「どうにかなるさ、澤村にみっちり鍛えられたよ」
朝矢は昨日の桜花によるスパルタ教育を思い出す。
桜花の言われるままに丸暗記したものを生徒たちに披露する時間がごく一刻と迫っており、肩を落とした。
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