1・弓道場へ再び

1・ピアノの音

 音が聞こえる。


 音楽室に響く音はピアノの音。


「だめだわ。間に合わないわ」


 美しく奏でられていた音が途中で途切れ、不調和音へと変わる。少女は息を乱しながら再び引き始める。そしてすぐに途切れて、鍵盤を両手で叩くとすべての音階の音が一斉に響き渡る。美しさもない荒々しい音に耳を傾けるものなどおらず、彼女の耳だけに不気味な音色が残る。


「だめだわ。早くしないと、早く弾けるようにならないと間に合わない」


 彼女は再び弾き始めた。


 それでもまたミスした。


 また同じところで間違ってしまう。音速がずれていき、ハーモニーが崩れていく。


 もうだめかもしれない。


 どう考えても、コンクールに間に合うはずがない。


 

「私が教えてあげるわ。きっと、弾けるようになる」


 今回のコンクールは辞退しようかと思い始めたとき、彼女のすぐそばから声がしたた。

 

 ハっとして振り向くと、彼女とさほど年の変わらぬ黒髪の少女がすぐ隣で微笑んでいた。






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