7・鼻歌

 そういうことで、桃志郎は学校へやってきた早々に、武村を勧誘する“鬼”との遭遇を果たした。難なく追い払うとすぐに武村への処置を行い、弓道場を出た桃志郎は携帯を取り出す。


 耳に当てると呼び出し音が鳴り響いた。


『はい』


「もしもーし」 


『なんだ? 桃志郎か』


 相手は不機嫌そうに言う。


「久しぶり」


『久しぶりもなにも先週会ったばかりだろ』


「本当につれないねえ。だから。もてないんだよ」


『余計なお世話だ。それよりもどうした? お前から連絡するということは、なにかあったのか?』


「うーん。そうだねえ」


 桃志郎は弓道場を振り返った。


「何か起こるかもしれないね。あちらさんが現れたよ」 


『は?お前、どこにいる?』


「弓道場の前。山有高校の……」


『山有?』


「そうだよ。朝矢くんにたのまれたんだよ。弦音君にも人間に見えるようにしとけってね」


『おいおい。まったく読めんぞ』


「察してくれないかなあ。警察でしょ。尚孝は」


『バカいうな。それだけの情報じゃさっぱりわからない。用がないなら切るぞ』


「用がないわけないだろう。君に一言いっておくよ。山有高校で数日以内になにかが起こる。そのときには尚孝よろしく☆」


『はっ? 警察が必要ということか?』


「そうじゃない。尚孝が必要なんだよ。そういうことで……」


「それって……」


 尚孝が質問するよりも早く、桃志郎は通信を閉じた。携帯をポケットに入れると、電話の相手である芦屋尚孝が「あいつ切りやがった」と愚痴っていることを想像しながら、鼻歌を鳴らし踊るように歩き始めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る