6・引き受けるか否か

「明後日じゃないの。無理よ。私仕事入っているもの」


 愛美がそう答えた。


「ええ。そうなんですかあ? でも、愛美先輩がメインですよお。それにいま話題の松澤愛桜がくるといったら、みーんな喜びますう。そこはどうにかあ」


 青子は愛美に両手を合わせながら、頭を下げた。


 愛美が助けを求めるように行慈のほうを見ると、困惑しながらもスケジュール帳を確認する。


「大丈夫よ」


 手帳を見ながら、行慈が言った。


「調整できそうだわ。たまには文化祭に参加するのも経験よ」


「えええ? 本気なの? 行慈さん」


「ええ、本気よ。私も久しぶりに四人の演奏みたいわ」


 そういいながら、朝矢、桜花の顔をみた。二人は困惑しながらお互いを見る。


「面白そうだねえ」


 するといつの間に帰ってきたのか。桃志郎が相変わらずニコニコと笑顔を浮かべている。


「店長。久しぶりですう」


 青子がそういいながら駆け寄ると、桃史郎は「本当に久しぶりだね。元気してた?」と彼女の頭を撫でた。彼女は嬉しそうに笑う。


「はい。もちろんですう。それでえ」


「聞いていたよ。構わないさ。今回の依頼のこともあるし、文化祭に参加するといいよ」


(今回の依頼か……)


 その言葉に朝矢はどこか引っかかりを覚えた。


「それよりも店長」


「なんだい? 朝矢くん」


「武村、だれにでも“人間”に見えるようにしてくれないか?」


「どうして?」


「あいつ、杉原にはマネキンのままにしか見えないみたいなんだよ。それであいつの行動のリアクションがおかしいから、周囲に怪しまれているぞ。どうにかしてやれ」


「あっ。そうだったね。弦音君にはまだいろいろ教えていないし、“入社式”もしていなかったね。それじゃぁ。仕方ないかあ。ちょっといってくるよ」


 そういって、桃志郎は店を出ていった。


「いつになく動くの早くない?」


 愛美の言葉を聞いて、朝矢はさらに違和感を覚えた。


 おそらく朝矢が言わなくても、そうするつもりだったのではないか。いや、武村になにかが起こると踏んでいるのか。それはわからない。


いつだって、あの店長の行動は意味不明だ。


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