第4話 清涼
「よし、全部食べ終えたようだな。今日もご苦労だった。それじゃあ、明日に備えて
ソローンは、素直に定位置に戻ろうとしたが訝し気に主を見た。
「マスター、保育器が新しくなってますが?」
「ああ、お前も少し成長したようだし保育器のサイズを大きくしてみた。これで生体機能の調整や各種栄養素の交換、魔力物質の調合がやりやすくなっている優れ物だぞ。あと、ワンポイントで飾りも付けたしな」
ソローンは、改めて保育器を眺めてから笑顔になった。
「とても緑の透き通った石がとても綺麗です。気に入りました。マスター、ありがとうございます」
「よし、じゃあ中へ入れ。今夜は、魔道知識も勉強させるからな。明日までには基礎の段階はクリアしろよ」
ソローンは、こくっと頷くと保育器に収まった。
天冠にエメラルドを配した新生保育器は、ソローンが中に入ると自動的に閉じられ静かに青く輝く液体で満たしていく。水晶で覆われた筒の中で、青い液体と銀色の水泡に包まれ可憐な少女は薄く笑みを浮かべて揺蕩っている。
館の中は、夏の暑さも遮り冷涼な闇の力で満たされ、ひんやりと涼し気であった。
「ふっ、夏に金魚鉢を見てるようで涼し気な感じだな。ま、漆黒のマントを羽織ってるようじゃ季節感なんて持ち合わせようもないがな」
『ソローンの造り手』は、自嘲するようにつぶやくとガラスの入れ物に左右の手からそれぞれ水銀と硫黄を零れさせると、それは手も触れずに勝手にかき混ぜられていった。
しばし、混合具合を見極めると保育器に視線を移した。
ガラスの入れ物は、空中を飛んで保育器の中に入り込むと中身の混合物だけを残し再び彼の手の下、錬金術師の作業台へと戻ってきた。
「ふーむ、あとアミトリプチリン塩酸塩とアルブラゾラムも追加しておくか。精神に異常を来たしては元も子もないからな」
彼のつぶやきに誘発されたのか、どこからともなく薬品が現れ、保育器の中、青く輝く液体の中に消えていく。
「あとは、魔導書とかも入れておくか。よっと、おお、結構古め、千年位前の本が来たな。いいね、よしこれも消化しやすいように一旦燃やすか」
魔導書は、青い炎に包まれ鈍く輝く灰となり、瞬く間に保育器の中に吸い込まれていった。
保育器の中では、青く輝く液体の中で美しい少女ソローンが嬉しそうな笑みを浮かべて涼し気に漂っていた。
保育器と、どこかの世界は魔力で繋がっており、多大な魔力が循環していた。
彼は、どこか満足げに頷いた。
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