第5話 別の街で

 美しい少女は、保育器インキュベータの中で目覚めた。

保育器を満たしていた青く輝く液体は、少女の覚醒を感知すると自動的に収納され保育器の蓋が開いた。


「おお、目覚めたかソローン」

「おはようございます、マスター」


 俺たちは、朝食を済ませると昨日戦闘があった街の隣町に転移した。


 ふむ、今日はこの街で実験だ。


「ソローンよ、この街の人間どもを皆殺しにせよ。ただし今日は、力押しではなく、魔道を試して見よ。保育器で昨夜既に魔道の初歩は学習済みのはず。おまえならできる。やれるな?」

「わかりました、マスター。まだこの身に魔道が使えるものか実感は湧きませぬが、知識としてはそれ相応のものがあります。仰せのままに、この街の者を皆殺しにいたしましょう」


 街は、頑丈そうな門を閉ざしている。見張りが既にこちらの接近を察知いしているようで、門の内側では戦闘準備をしている者、戸締りを厳重にし鎧戸を下ろして中に女子供が立てこもる様子など慌ただしい人々の動きがそれらの音を解析することにより、おぼろげに見えてくる。


 さて、巣穴に籠ったネズミをどうやって焙り出そうか?

「マスター、行きます。炎の弾!」


 ソローンが、呟くと直径一メートル位の燃え盛る炎の弾が数発、街の門に命中する。門はあっと言う間に燃え落ちて、ちょうど門の内側で整列していた街の人々が火だるまになって蠢いていた。


「うわー、熱い、苦しい。た、助けてー」


「ソローン、皆が暑がっているぞ、少し涼しくしてやれ!」

「はい、マスター」


「雨を降れ、降れ!風を吹け!」


 突如、街の上空に黒雲が現れると猛烈な勢いで雨が降り、強い風が雨粒を横殴りに街の全域にわたって打ちのめす。このため、街の門周辺の炎の弾から延焼した火災がを瞬く間に鎮火していった。


「おー、助かったぞ。今のうちに治癒魔法を誰か掛けてくれ!は、早く。今ならまだ間に合うんだ、父さん。しっかり!」


 茶色い、頭巾を被った老人が杖を振りながら呪文を唱える。

「水の担い手よ、生命の力でこの者の傷を癒したまえ!」

「おお、やけどの跡が薄れていくぞ!」

「と、父さん、助かったよ」


 

 ああ、これで何とか助かったんだ!

 逃げまどっていた住民に、安堵の空気が流れた。


 ソローンは、辺りの悲喜こもごもに飽きたのか、次の行動に移った。

「熱反転!」


 街の所々で、赤い光が空へ向かって伸びている。そして、周囲の温度が急激に低下し街は巨大な氷のオブジェと化した。


「よし、なかなか美しく纏めたな。ソローン、よくやった。では帰るとするか」

「はい、マスター」


 この日街が、また一つ消えた。

 


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